▼99▲ 世紀末における聖夜の過ごし方
「と言う訳で、今晩はクリスマスにちなんで七面鳥の丸焼きです」
ミニスカサンタからいつものエプロンドレスに着替えたイングリッドが、そう言いながら、オーブンから生々しい鳥の形を保ったままの丸焼きを取り出した。
「だから、まだクリスマスの季節じゃないんだが。それはそうと、こんがり焼けてて美味そうだな」
正しいクリスマスの時期に関してこだわりを見せていたものの、イングリッドがナイフでてきぱきと解体した丸焼きを口にするや、そんな事はどうでもよくなってしまうエイジン先生。
「一つ確認しておきたいのですが、エイジン先生はお酒を飲まれないのでしたね?」
「ああ、アルコールはまるっきりダメだ」
「では、ノンアルコールのお子様向けシャンパンはいかがですか。気分だけでもと思いまして」
「それならいい。って、おい、こっちに瓶の口を向けて栓を抜くな」
「大丈夫です。中身を振っていないので、そんなに勢いよく飛びませんから」
次の瞬間、ポンッ、という音と共にプラスチックの栓がエイジンの頬を弾丸の如く掠め、ほぼ同時に、ダンッ、と大きな音を立てて背後の壁に衝突し、床に落ちて転がった。
「おい」
「失礼しました」
イングリッドは何事もなかったかの様に、二つのグラスにシャンパンを注ぎ、
「気を取り直して、乾杯しましょう。エイジン先生の世界では、こう、グラスを高く掲げて、『聖夜を汚すバカップル共に死を』、と叫んで一気にシャンパンを飲み干し、空になったグラスを床に叩きつけて割るのでしたね?」
「そんな殺伐としたクリスマスは嫌だ」
「食事の後はエアガンを持って、デートスポットにカップル狩りに出掛けるとか」
「普通に犯罪だぞ」
「浮かれるバカップルで満室のラブホテルに火炎瓶を投げ込むとか」
「クリスマスを何だと思ってるんだよ」
「ヒャッハー」
「やかましい」
間違いを一々訂正する気も起きなくなって来たエイジン先生だった。




