▼98▲ 七月のミニスカサンタ
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
小屋に戻ったエイジンは、肩と腕と太ももが露わになった、赤白のミニスカサンタ姿のイングリッドに出迎えられた。
「ただいま。これがシンクロニシティって奴か」
衣装そのものの奇抜さより、自分とアランがついさっきまで話していた事が、偶然別の場所で具現化されている方に驚くエイジン先生。
「『同時発生』ですか。するとエイジン先生も、サンタの事を考えていらしたのですか?」
「正確には、純真無垢な子供時代の象徴としてのサンタだがな。俺の世界で『サンタを信じる子供』は、無邪気で騙され易い大人をからかう言い回しでもある」
「よく分かりませんが、エイジン先生の世界におけるサンタとは、人を鬱にする悪魔の様な存在だそうですね」
「偏った知識だが、ある意味合ってる。ってか、その目的でわざわざそんな衣装を用意したのか」
「色々試して、エイジン先生の趣味嗜好を探る実験の一環です」
「もうすぐこの世界を去る人間の趣味嗜好を探った所で何の意味がある」
「エイジン先生は、全裸より一部着衣を残す派とお見受けしました」
「俺の好みは、きちんと服を着て、控え目で、節度のある人だ」
「もしかして私、口説かれてますか?」
「その格好で言ってもギャグにしか聞こえんが。まあ、ネタに走らず黙ってさえいれば、あんたが相当な美人なのは認める」
「照れますね」
「褒めてないから」
「今晩はこの格好でエイジン先生の枕元にプレゼントを」
「くれるのか」
「衣装を脱ぐと全裸に赤いリボンを巻いた私がプレゼントでした、という趣向で」
「帯封をした厚い札束の方が好みなんだが」
「その札束から抜き取った紙幣を、私の胸の谷間に一枚一枚挟んで行くプレイを御所望ですか」
「もういい、負けた。着替えて来るからどいてくれ」
やれやれといった表情で寝室に向かうエイジンの背後から、
「メリークリスマス」
と抑揚のない声を掛けるイングリッドに、
「クリスマスは五ヶ月後だからな」
と、エイジンは振り向かずに言い返す。
こちらの世界とあちらの世界の時間の流れは同じだと、アランから聞いて知っていたのだ。




