▼95▲ 抱き枕にされた男
ベッドの中でトップレスの美女に大きな生乳を当てられながらエイジンは、
「グレタ嬢に復讐を諦める様、あんたからも説得してくれないか」
と、その状況に全然関係ないお願いを真顔で口にした。
「お断りします」
イングリッドはさらに身を寄せ、上半身を完全にエイジン先生に密着させる。
「グレタ嬢はあんたにとって、大切なご主人様なんだろ」
「大切なご主人様だからこそ、そのご意志に従うのです」
「いいか、よく聞け。グレタ嬢が古武術の奥義を習得しようとしまいと、リリアン嬢に勝てる見込みは少ない。負けて大ケガするのはほぼ確実だ。そもそも、結婚式を間近に控えた幸福なカップルを襲撃する事自体が間違っている。そんな狂人が一人成敗された所で、世間から『ざまぁ』と嘲笑されるだけだ」
「それでも、私はグレタお嬢様のご意志を尊重します」
「大切なご主人様が間違った方向に進んでいたら、正しい方向に軌道修正してあげるのが、主人思いのメイドの役目じゃないのか」
「たとえ黒でも、グレタお嬢様が白と言えば、私にとっては白です。世界中の全ての人がグレタお嬢様の敵に回ろうとも、私は最後までお嬢様の味方をします」
「でも、もし仮にグレタ嬢が自分から崖っぷちに向かっていたら、流石にあんたでも止めるだろう」
「グレタお嬢様がどうしても行くと言うのであれば、共に崖下に落ちる事になろうとも、私はお嬢様について行きます」
「いや、そこは止めろよ。お笑いコントじゃないんだから」
「グレタお嬢様は心を許せる人が少ないのです。正当な理由があろうとも、私にはそんなお嬢様の信頼を裏切る様な真似は出来ません」
「ジェームズ君の様に、か」
「はい。あの方もリリアン嬢も、自分達がグレタお嬢様に残酷な仕打ちをした事をもっと自覚するべきです」
「そんなに残酷かねえ。むしろ、腐れ縁をスパッと解消してもらった事に感謝すべきだろ。昼ドラのドロドロした三角関係みたいに延々と引きずる方がタチが悪い」
「人の心はそんな風に簡単に割り切れるものではありません」
「時間が経つと結構割り切れるもんだがな。グレタ嬢にしても、もうかなり割り切れていると思う。あともう一押しで、アホな襲撃をやめさせられる所まで来てると思うんだが」
「グレタお嬢様の心はあくまでグレタお嬢様のものです。私はそこに干渉する気はありません。ただグレタお嬢様の決定に従うだけです」
イングリッドはそう言って、エイジンの背中に手を回し、足の間に自分の足を絡め、
「眠くなってきました。このまま抱き枕になってください、エイジン先生」
がっちりホールドしてから、目を閉じてすぐに眠りに落ちた。トップレスで。
「寝かさないんじゃなかったのか。ってか、起きろ。離れろ」
エイジン先生は四苦八苦の末イングリッドのホールドを解除し、そのまま寝かせておいて、自分は床に敷いてあるダメイド用の布団にもぐり込んで寝た。
そして翌朝、エイジンはその布団の中で半裸のイングリッドに抱き付かれた状態で目を覚ます。
一度抱き枕にすると決めた以上、どこまでも追って抱き枕にするらしい。




