▼94▲ 猫の喧嘩の序盤戦
作務衣を着たままのイングリッドは、そばを茹でつつエビと野菜の天ぷらを揚げ、出来上がると手際よく盛りつけて、同じく作務衣姿のエイジンの前に差し出した。
「今夜はざるそばか。なるほど、確かに作務衣の方が雰囲気出るな」
「私も色々と考えています。どうすれば、エイジン先生を楽しませつつ、感心させられるかと」
「無理に楽しませなくていいから、普通にやってくれ。だが料理に関してはいつも感心してるよ」
「ありがとうございます。いずれ女体盛りにもチャレンジを」
「しなくていい」
「では、中華料理の時には二人でチャイナドレスを着ましょうか。スリットが深く入ったものを。下着を着けずに」
「何で俺までチャイナドレスなんだよ。せめてカンフー服にしてくれ。動き易そうでいいかも」
「手取り足取り中国武術の稽古を付けてやると称して、チャイナドレスのスリットからエイジン先生の蛇拳を私のスリットに突っ込むつもりですね」
「中国武術に謝れ」
いつもの様にくだらない事を言い合いながら夕食を終え、ジョギングに出てからシャワーを済ませると、その日も後は寝るだけとなる。
イングリッドはパジャマの上を脱いで上半身裸になると、一足先にベッドにもぐり込み、
「では、昨晩の続きをしましょうか」
と言って布団を持ち上げ、エイジンを誘った。
「どけ。そこは俺の寝床だ」
半裸の美女にベッドに誘われる色男と言うよりは、犬猫に寝床を占領されてしまった飼い主状態のエイジン。
「昨晩エイジン先生はコトの真っ最中に寝てしまいましたからね。今晩は私を満足させてくださるまで寝かせません」
「コトの真っ最中って、グレタ嬢に関する議論の事だよな。いくら話し合った所で、あんたを満足させられるとは到底思えないんだが」
そう言いつつ、エイジンはイングリッドの持ち上げた布団の中に遠慮なく入り込み、そのすぐ隣に横たわると、
「もし出来るなら、あんたにも協力して欲しい事があるにはある」
と、イングリッドの顔に自分の顔を、ずい、と近付けて言った。
いつものエイジンらしからぬ意外な攻勢に、誘った側のイングリッドが一瞬たじろいでしまったが、すぐに気を取り直し、
「何でしょうか」
と言って、自分の生乳がエイジンの体にくっつく位に身を寄せる。
相手の顔に自分の顔を密着させて行き、引いた方が負け。
その様子は、猫の喧嘩の序盤戦に似ていた。




