▼09▲ お触り会と撮影会
「修行に入る前に、ちょっと確認しておきたい事がある」
いかにも古武術マスターであるかの様に振舞い続けるエイジン先生。
「何かしら?」
そんなエイジンを疑う事なく聞き返すグレタは、ほぼ術中にハマっていると言っていい。
「リリアン嬢が使った古武術の技について、詳しく教えて欲しい。腹部を軽く突かれたと聞いたが、正確にはどの辺りをどうやられたんだ?」
「ここよ」
グレタはTシャツの前を思いきりよく左手でまくり上げ、右手の人差し指で、ヘソを中心にして直径十センチ位の円を描いて示す。
くっきり割れてよく引き締まっているグレタの腹筋を、真面目な表情でじっと見詰めるエイジン先生は、傍から見ると変態紳士そのものだったが、先生を信用しきっているグレタは全然気にしていない様子。
「そこを、逆さにした掌で突かれたんだな。上から? それとも下から?」
「ほぼ真っ直ぐだけど、あえて言うなら下からね。右手で構えてみて」
グレタはエイジンが逆さにして開いた掌を、その手首を取って自分の腹へ誘導し、ヘソの上に軽く押し付けさせ、
「もっとかがんだ状態から、やや上向きに。力はそんなにかかってなかったわ。でも、その直後にそこから痺れる様な痛みが全身に広がって、体が動かなくなったの」
グレタの腹に直接手が触れている事により、傍から見たエイジン先生の変態紳士度が上がった。もしくは、電車の中で勇敢な女性に手首をつかまれた腹フェチの痴漢の様に見えない事もない。
「その瞬間の、二人の体勢をよく知りたい。アンヌ、こっちに来て、リリアン嬢の役をやってくれ」
少し離れた所から、いつバレるかとハラハラしながら見ていたアンヌが呼ばれ、グレタの証言に従って、突きを入れる側と入れられた側の位置関係を再現しようとする試みが始まった。
「こんな感じよ」とグレタが納得した時点で、エイジンは二人をその状態で静止させ、アランから携帯を借り、色々なアングルの写真を撮りまくる。一通り撮り終えた後で、
「じゃあ、次は一連の動きを撮ろう。攻撃の始まりから終わりまでを、ゆっくりと再現してくれ」
今度はスローモーションで絡み合うグレタとアンヌの動きを、何度かに分けてじっくり動画撮影するエイジン先生。
これを見ていたアランは、後でエイジンに、
「すみません。あの時ちょっとだけ、エイジン先生が個人的に楽しんでやっているんじゃないか、と疑ってしまいました」
と言って詫びた。
「人を騙そうって時に、そんなスケベ心を出す余裕はないよ。ただ純粋に偽指導の為の資料が欲しかっただけだ」
エイジンは特に気にした様子もなく、そう答える。
「それに、どっちも趣味じゃないから、安心してくれ」
何様のつもりだ、エイジン先生。