▼86▲ ウィッグ攻防戦
「『偶然上手く行った事』を有効活用出来たのは、俺達がツイてる証拠だ。この古武術詐欺はきっと成功するぜ」
そう言ってアランを励ました後、小屋へ戻ったエイジン先生は、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
金髪縦ロールのウィッグを被ったイングリッドに出迎えられた。
「何の真似だそれは」
「ちょっと髪型を変えてみました」
「ちょっとってレベルじゃねえぞ。って言うかそれ、この前、丸太との衝突実験でマネキン人形に被せた奴じゃねえか」
「丸太を衝突させる役の人形をわざわざグレタお嬢様に似せるとは、エイジン先生もひどい事をなさいますね」
「じゃあ、あんたが今やっている事は何だ。安っぽいコントで、グレタ嬢の真似をしてるお笑い芸人にしか見えないんだが」
「今、グレタお嬢様と同じ髪型のウィッグを着けたメイドに、あんな事やこんな事をさせて、邪な欲望を満たそうと考えましたね。とんだ鬼畜です」
「うん、あんたが雇い主に対してものすごく失礼な事を考えていたのはよく分かった」
「はて、失礼な事とはなんでしょう。私はただ、『あんな事やこんな事』と言っただけですが?」
「その後続けて、『邪な欲望』とか言ってなかったか。ともかく、こんなふざけた事をしているのがグレタ嬢にバレたら、マジで怒られるぞ」
「大丈夫です。『エイジン先生に無理矢理やらされた』と言いますから」
「しれっと人のせいにするんじゃねえ」
「その際、『この格好で、あんな事やこんな事までさせられた』と涙ながらに訴えます」
「やかましいわ。もういいから、そのウィッグ取れ。何だかグレタ嬢が可哀想になって来た」
「では、失礼をして」
「待て、なぜスカートの下に手を突っ込む」
「下のウィッグから外しますので」
「何考えてんだあんた」
「エイジン先生に服を脱がされた時、上の毛と下の毛の色が違っていたら不自然でしょう?」
「まさか、ここまで頭がおかしいとは思わなかった」
「どうぞ、記念に差し上げます」
そう言ってイングリッドはエイジンの手に、タワシ状の金髪の塊をそっと握らせた。
エイジンはそれを一目見てから、
「いらんわ!」
と叫んで床に叩き付ける。
「軽いジョークです。流石にそこまではやりません。そのウィッグは未使用のものですので、どうかご安心ください」
してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべるイングリッド。
「大方そんな事だろうと思ったよ」
「騙されたのが悔しいからと言って、負け惜しみは頂けませんよ、エイジン先生」
「いや、ウィッグに全く血が付いてなかったから、すぐ分かった」
してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべるエイジン。
余裕の笑みが消え、顔を少し赤くしたイングリッドは
「変態」
とだけ言い返す。
「先に仕掛けたのはそっちだろう」
エイジンの抗議を無視して、イングリッドは夕食の用意をする為、キッチンに向かった。




