▼83▲ 気まずい話題
エイジンが小屋に戻ると、額から血を流したイングリッドが
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
と、いつもの様に平然と出迎えた。
「ただいま。一応、聞いておく。額から血が出てるが、ケガしたのか?」
あまり関わりたくなさそうに尋ねるエイジン。
「これはただの血糊です。心配して頂き、ありがとうございます」
「よかった。瀕死のメイドはいなかったんだ」
無表情のままそう言って、さっさと寝室に行こうとするエイジンに、
「そうやってスルーされるのを防ぐ為に、毎日趣向を凝らすこちらの身にもなってください」
と抗議するイングリッド。
「いつもちゃんと『ただいま』と言ってるだろう」
「ボケた人には必ずツッコミを入れるのが、エイジン先生の世界の礼儀と聞きましたが」
「それは関西圏の話だ。俺は関東圏の人間なんで気にしないでくれ」
「それはそれで関西圏に対する偏見の様な気がします」
「詳しいじゃないか。あんた、知っててやってるだろう」
一通り構ってもらえて満足したイングリッドは、血糊を落として夕食の用意をし、エイジンと一緒にテーブルにつく。
「今日は赤飯か、美味そうだな。俺の世界じゃ、めでたい事があった時の定番だ」
「ここでエイジン先生に悲しいお知らせがあります」
「赤飯の意味ねえな。何だ?」
「今日から四、五日程、エイジン先生にベッドで全裸で抱き付くオプションを控えさせて頂きたいのですが」
「オプション言うな。ここはいつからそういうお店になったんだ」
「私も女ですので、月に一度の」
「分かった、皆まで言うな。全て察したから。大変だな。何もしないでくれ。むしろその方がありがたい」
あわててイングリッドの言葉をさえぎるエイジン先生。
「今日お赤飯にしたのも、エイジン先生の世界の風習に従いました」
「それは普通最初の一回だけだ。最近の子は嫌がるから、やらない家庭の方が多いって話だぞ」
「額の血も、一応伏線という事で」
「もういいから、飯に専念させてくれ。この鰆の味噌焼き美味しいな。里芋の煮っ転がしも絶妙だ」
男がこの手の話題を女から堂々とされると、気まずい事この上ない。
そして翌朝、油断したエイジンのベッドには、いつもの様にイングリッドがもぐり込んでいた。トップレスで。
「頼むから体調の悪い時位、自分の布団で大人しく寝ててくれ」
「全裸で抱き付かないとは言いましたが、半裸で抱き付かないとは言ってません」
とんち小僧気取りのイングリッドを、エイジンは、しっ、しっ、と追い払った。




