▼78▲ 疲れて寝過ごす残念メイド
「今日はずっとモルモ、もといモニターをやって疲れただろう。アホな事はせずに、しっかり睡眠を取れよ」
寝る前にエイジン先生がそう言うと、イングリッドは、
「私は疲れていませんし、アホな事をした覚えもありませんが」
と真顔で答えて、照明をナイトランプに切り替え、エイジンからのツッコミが入る前に自分の布団にもぐり込んだ。
イングリッドがアホな事を始めるのは、エイジンが深い眠りに就く深夜からである。
静かにむくりと起き上がると、パジャマとパンツを脱いで全裸になり、エイジンのベッドにもぐり込んでやりたい放題の挙句、そのままそこで一緒に眠り、翌朝エイジンに追い払われるまでが一連の日課になりつつあったのだ。
一方、毎晩ベッドにもぐり込んで来るこの全裸の美女に対し、エイジンはもう慣れてしまったのか、まるで犬猫の様に追い払う様になっている。確かに飼い主の寝床にもぐり込む犬猫も全裸だが。
しかしその翌朝エイジンは、いつももぐり込んで来る動物がベッドにいない事に気付き、体を起こして下を見ると、うつ伏せになって布団から這い出ようとしたら睡魔に襲われてそのまま寝てしまったと思しきパジャマ姿のイングリッドを発見する。
その伸ばした右手には、スクール水着がしっかと握られていた。
「一体何をやらかすつもりだったんだ、こいつは」
エイジンは呆れた様に呟きつつ、横向きになっているイングリッドのぐっすり寝入っている顔に見入った。やはりメイク前のすっぴんでもかなりの美人である。アホな事さえしなければ。
「そりゃ、あれだけハードなテストに付き合ったら疲れるさ。よし、朝食は俺が作るか」
起こさない様にそうっとベッドを下り、出口に向かうエイジンの足首を、ホラー映画のワンシーンの様に、突如イングリッドの左手がはっしと掴む。
「おはようございます、エイジン先生。朝食の支度は私がしますので、くれぐれも余計な事はしないでください」
アホな事が出来なかったせいか、ちょっと不満げなイングリッドだった。




