▼76▲ 痴女おんぶお化け
モルモット役を買って出たイングリッドを相手に、修行装置のテストを夕方まで入念に繰り返したエイジン先生は、
「丸太を勢いよく揺らしても、トラッククレーンはしっかり安定しているし、ロープも振動に十分耐え得るな。これなら一、二週間は余裕で遊べ、もとい有意義な修行が出来そうだ」
と満足げに言って、吊り下げられた巨大丸太をポンポンと叩いた後、
「イングリッドも御苦労さん。あんたのおかげで、この装置の性能が確認出来たよ」
疲れ切った様子で地面に大の字になって横たわるモルモットメイドに、労わりの言葉を掛けた。
「お役に立てて光栄です、エイジン先生。ところで、一つお願いがあるのですが」
横たわったまま答えるイングリッド。
「何だ」
「頑張り過ぎて少し疲れました。おんぶしてください」
「よし。じゃ、アンヌ、すまないがイングリッドをおんぶし」
「エイジン先生におんぶして欲しいのですが」
両手を突き出し、真顔でエイジンにおんぶをねだるイングリッド。
「誰がおんぶしても同じだろう」
「精神的な満足度が違います」
「アンヌ、イングリッドの両手を持ってくれ、俺は足の方を持って運ぶから」
次の瞬間、イングリッドはがばと跳ね起き、エイジンの背後に素早く回り込んで、がっちりと抱き付いた。
「このまま小屋までお願いします、エイジン先生」
「全然元気じゃねえか。おんぶする必要ないだろ」
抗議しつつも、バックを取られた以上、断ると何をされるか分からないと判断したのか、エイジンは渋々イングリッドを背負った。
「せめてものサービスに、背中に当たっている私の胸の感触をお楽しみくださ」
「じゃ、アラン、アンヌ、俺達はこのまま小屋に戻るから、グレタ嬢によろしく」
痴女おんぶお化けと化したイングリッドの言葉をガン無視して、二人に別れを告げるエイジン。
イングリッドをおんぶしたまま小屋へ向かう途中、エイジンは、
「もういいだろ。降りて歩け」
と立ち止まる。
「嫌です。最後までおんぶしてください」
頑なに降車拒否するイングリッド。
「この間の修羅場の一件で、アンヌに『アランを狙っているんじゃないか』って警戒心を起こさせたから、わざと俺にベタベタしてる所を見せて、アンヌを安心させようって腹じゃなかったのか」
「流石エイジン先生。よく見抜きましたね」
「なら、もうアンヌは見てないから、早く降りろ」
「それはそれ、これはこれです。おんぶは別腹ですから」
「訳分からん」
「お姫様抱っこしてくださるなら、また話は別ですが」
図々しい提案をするイングリッドを無視して、エイジンは再び歩き出した。




