▼74▲ 巨大橦木VSリアクション芸人
グレーの作業着、黄色いヘルメット、黒い安全靴、白い軍手と、工事現場の作業員スタイルに身を固めたエイジン、アラン、アンヌの三人は、ガル家の屋敷の裏手の外れにある更地に来ていた。最初の修行で、グレタが無意味に穴を掘っては埋め戻す作業をやらされていた場所である。
大きな巻尺を使ってエイジンとアランが測った位置に、アンヌが赤いカラーコーンを置いて四台分のトラッククレーンの駐車スペースを定めて行き、それが一通り終わると、その四か所の中央にブロックを並べ、丸太の作業台を用意する。
作業台と言っても、二列のブロックを一メートル間隔で平行に並べるだけで、上から見ると「=」、前から見ると「凹」の形になっており、要は転がらない様にして、地面から三十センチ程浮かせてロープを巻き付け易くする為の、シンプルな丸太置きである。
三人がちょうど作業を終えた所に、四台のトラッククレーンと、加工した丸太を荷台に乗せた軽トラックが到着し、
「予定通り到着しました、エイジン先生」
先頭車両から降りて来た作業着姿のイングリッドが、指示を仰ぐ。
まずクレーンの一つを使って丸太を軽トラックから作業台に下ろし、四台のトラッククレーンを所定位置に駐車した後、配車サービスの運転手達を軽トラックで帰らせた。
丸太には前、中央、後の三ヶ所に、半径を小さく削った段差が付いており、その真ん中には穴が開いている。いずれもロープを穴に通してから丸太に巻き付ける為の段差であり、前後の段差はクレーンで吊るロープ用、中央の段差は丸太を制御する為の持ち手となるロープ用である。
作業台の上でロープを巻き付けた丸太を、四つのクレーンで胸の高さに吊り下げると、修行装置の完成である。
文章で説明するとややこしいが、簡単に言えば、寺の鐘を突く橦木の巨大版を想像すればいい。ただしこの装置の場合、突かれるのは鐘ではなく人間である。
作業を終えたエイジン先生が持ち手のロープを持って、吊り下げられた巨大な丸太をゆらゆらと揺らし、
「よし、大丈夫そうだな。じゃあ、モニターさん、テストの方をよろしく頼む」
と、イングリッドに声を掛ける。
「了解しました」
両手に軍手をはめ、頭にヘルメットを被った作業着姿のイングリッドがそう言って、吊られた丸太の先端と対峙して立つ。
「まずは軽く揺らしてみようか」
エイジンはアランとアンヌに手伝ってもらい、丸太を反対方向に大きく引いてから一気に手を離した。
結果、巨大な丸太の先端がイングリッド目がけて加速しながら迫って来る。
イングリッドはその先端に手を触れる前に大きく横に飛び退いて、丸太との正面衝突を避け、
「どこが『軽く揺らして』ですか。今、思いっきり反動を付けたでしょう、エイジン先生」
と、少し蒼ざめた顔で抗議した。
「すまん。結構スピード出るな、これ。打たずに逃げたのは、いい判断だった」
「殺す気ですか」
「ま、徐々に慣れるさ。頑張れ」
呑気に言うエイジン先生の目の前で、巨大丸太が前後に大きく、ぐいんぐいん揺れ続けていた。
リアクション芸人と言えども生身の人間であり、「お笑い番組の収録で大ケガをした」、とニュースになるのも決して珍しくはないのである。




