▼07▲ 古武術詐欺の始まり
「だったら、他の奴に召喚を頼めないのか。この世界の魔法使いは、何もアラン一人だけじゃないんだろ?」
「無職」という単語にパニクっているアランとアンヌに向かって、エイジンは冷静に提案をしてみた。
「ダメです。異世界転移の魔法は、準備に三十日を要する程の大魔法なんです。今から他の魔法使いに頼んでも、発動するまでの期間は短縮出来ませんし、都合よくこのタイミングで準備が整っている魔法使いがいたとしても、元々別の重要な目的の為に使われるはずの大魔法を、おいそれと譲ってくれる訳がありません」
アランが悲愴な顔で返答する。
「じゃあ仕方ないな。アラン、無職の世界にようこそ。歓迎するぜ!」
エイジンが両手を広げてそう言うと、
「いやああああ!」
アランは断末魔の悲鳴を上げた。
「冗談だ。そんなに落ち込まないでくれ。むしろこっちが傷つく。それにまだ手はある」
「と言いますと?」
「発想を逆転させるんだ。俺は古武術なんか知らないから、グレタ嬢にそれを教えられる訳がない」
「そうです」
「けど、古武術を知らない俺でも、グレタ嬢にそれを諦めさせる事なら出来る」
「え?」
「俺はあくまでも古武術マスターとして押し通す。それでグレタ嬢を騙して、ひたすらキツイ修行をさせて、『こんなに辛いのなら、古武術なんかやりたくない』、と音を上げさせればいいんだ。そうすれば俺はお役御免で元の世界に帰れるし、アランには何のお咎めもなく、グレタ嬢は、『最後の悪あがきで悪役が主人公に戦いを挑むも完膚なきまでに叩きのめされる』お約束の展開を回避出来る。悪い話じゃないだろう」
「ま、まあ、確かにそうですが。そんなに上手く出来るかどうか」
「『出来るか』じゃねえよ、『やる』んだよ。これから俺達三人は共犯だ。心を一つにして頑張ろう」
エイジン先生の古武術詐欺が今ここに始まった。
「何か、却ってえらい事になってしまった様な気が」
グレタお嬢様の待つ稽古場に三人で向かう途中、そんな事をポツリと小さく呟くアラン。