▼69▲ 何かにつけて邪魔しに来る猫
その晩、寝る前に、エイジン先生は居間でイングリッドに、明後日手伝ってもらう作業について、ざっと説明する事にした。
「四台のトラッククレーンと加工した丸太を積んだ軽トラが、朝九時にガル家の敷地の裏門まで来るから、例の更地に誘導してくれ」
テーブルに置いたスケッチブックに、サインペンで概略図を描いてみせるエイジン。
「更地まで来たら、軽トラの荷台から丸太をクレーンで下ろすのですね」
テーブルを挟んで向かい合っているイングリッドが、パジャマの一番上のボタンを外した胸元を見せつける様に、前に乗り出した。
「ああ。で、その後、四台のクレーントラックをこんな風な配置で駐車してもらった後、配車サービスの運転手達には帰ってもらう。それはそうと、パジャマのボタンを閉めろ」
最後のエイジンの要求に対し、イングリッドは逆らう様にもう一つ下のボタンも外し、
「それ以後は、私達がクレーンを操作するのですか」
と言って、テーブルに手を突き、さらに前に乗り出した。
「そう。丸太にロープを取りつけた後、アランとアンヌとあんたと俺がそれぞれのクレーンを操作して、同時に吊り上げる。微調整は要るだろうが、基本は吊り上げるだけでいい。それと、図が描きにくいから少し下がれ」
しっ、しっ、と追い払う手つきをするエイジンを無視して、イングリッドは勉強の邪魔をする猫の様にスケッチブックの上からどかず、
「丸太が約一トン弱として、随分吊り上げ荷重の大きなトラッククレーンを用意しましたね」
と言って、胸元が相手にさらによく見える様に顔を上げた。
「ただ吊り上げるだけじゃなく、丸太を揺らすからな。本来、こんな使い方をしちゃいけないのかもしれないが、これだけ荷重に余裕があれば、何とかなるだろう。それを確認する為にも、事前テストをしっかりやっておく必要があるが。ってか、こっち来るな。下がれ」
「揺らした丸太が、トラックにぶつかってしまう恐れはありませんか」
下がらずにイングリッドが聞く。
「ぶつかりそうな場所には厚いウレタンを貼り付けて防護しておく。よほど変な揺れ方をさせない限り、大丈夫だとは思う。詳しいことはまた後で説明するが、何か質問はあるか」
「大体分かりました。細かい事は現場で作業をしながら聞いた方が早そうです」
「だな。やっぱり実際にやってみないと分からない事もあるだろう。続きは明後日だ」
説明を終えて寝室に向かうエイジンの後から付いてきて、床に敷いた布団で寝たイングリッドだが、なぜか翌朝にはエイジンのベッドにもぐり込んでいた。全裸で。
「猫かあんたは」
「にゃー」
真顔かつ可愛げのない声で鳴くイングリッド。
「ま、前の夜みたいに無言でいられるより、こうしてふざけてる方が気が楽だ」
エイジンの言葉に、イングリッドは急に顔が真っ赤になり、がば、と起き上がって寝室を出て行ってしまった。全裸で。




