▼65▲ 技能系と精神操作系
「今日は、どこにも口紅は付いてませんよ。他に何かされた形跡もありませんし」
稽古場に向かう途中、アランはエイジン先生の回りを一周してそう言った。
「ありがとう。やっぱり、夕べのアレが効いたか」
夕べ、エイジンがベッドから転げ落ちてイングリッドの生乳をつかんだら、変な声が出てものすごく気まずくなった話をすると、アランは顔を真っ赤にして、
「毎晩二人で一体何をやってるんですか」
と、呆れ果てた。
「俺に言うな。元はと言えばあっちから仕掛けて来るんだから。お前とアンヌだって、毎晩こんな風にイチャついてるんだろ?」
「してませんよ! お屋敷の中でそんな真似が出来る訳ないじゃないですか!」
「アウトドア派か」
「何の話ですか!」
「イチャついている所を婚約破棄されたばかりのグレタ嬢に見つかったら、ひがみでどんなひどい事をされるか分らんから気を付けろよ」
「怖い事を言わないでください」
「冗談だ、そう怯えるな。最近はグレタ嬢も随分大人しくなってる様だし、特に今は紙風船を膨らませる事で頭が一杯だから、万一そういう場面に遭遇しても、『仲がいいのね』位で済むだろう」
「それはそれで恥ずかしいんですが。って、何を言わせるんです」
「ノリがいいな。だが、自分達が紙風船以下の扱いをされてるのはスルーか。ところで、資材の手配はどうなってる?」
「ロープは今日、丸太は明後日届く予定です。丸太は加工する必要があるので少し時間が掛かります。トラッククレーンについても、明後日来る様に手配しました」
「御苦労さん。じゃあ、組み立ては明後日から開始だな。イングリッドにも手伝ってもらう予定だが、この屋敷で他にトラッククレーンが操作出来る使用人はいないか?」
「魔法で私達が操作出来る様にする手もありますよ。もちろん無免許なので、公道には出られませんが」
「便利だな。じゃ、それでいこう。せっかく魔法使いって設定なのに、今まで雑用ばかりやらせて済まなかった」
「設定じゃなくて、本当に魔法使いなんですが」
苦笑するアラン。いつも黒いローブ姿なのに魔法使いじゃなかったら、宗教関係者かただの痛い人である。
「魔法でグレタ嬢を大人しくさせる事は出来ないのか?」
「技能系はともかく、精神操作系の魔法は禁止されてます」
「無理やりロボトミー手術する様なものか」
「その例えはちょっと」
話が危ない方向へ行く前に、二人は稽古場に到着しろ。




