▼63▲ ヨゴレ芸人の誇り
夕食後しばらくしてからエイジン先生はジャージに着替えて、昨日に引き続きガル家の広大な庭園をジョギングしに出かけ、さも当然の様について来て伴走する散歩中の犬の様なイングリッドに、
「あんたをヨゴレ芸人と見込んで、頼みたい事がある」
と、走りながら話しかけた。
「誰がヨゴレ芸人ですか」
同じくジャージ姿で走りながら、散歩犬メイドが答える。
「グレタ嬢の次の修行には、今までと違ってちょっと大仕掛けを使う予定なんだが、資材が来たら組み立てるのを手伝ってくれないか。あんた力がありそうだし」
「かしこまりました。私に出来る事があれば、何なりとお申し付けください」
「それと、組み立て終わったら、その仕掛けの安全性を確認する為に人柱もとい、モニターになって欲しいんだが」
「今、不穏な事を言いかけましたね、エイジン先生。もちろんグレタお嬢様の為とあらば、多少の事には耐えてみせますが、それ程危険なのですか?」
「最近公園から消えていった遊具位の危険度だな。回転ジャングルジムとか箱形ブランコとか回旋塔位の」
「あまり危険ではなさそうですね」
「知ってるのか」
「こちらの世界の公園では現役です。子供が時々ケガをする事もありますが、皆楽しく遊んでいます」
「なら大丈夫だ。ただ、実際に組み立ててみないと分からない所もあるから、事前テストは念入りに行う」
「どの様な仕掛けなのです?」
「後で教える。それと、この屋敷でクレーンの操作が出来る人はいないか?」
「私は工事用車両と機器の操作なら一通り出来ますが」
「そりゃ、好都合。組み立ての際にはよろしく頼む。ただのエロ担当ヨゴレ芸人じゃなかったんだな、あんた」
「誰がエロ担当ヨゴレ芸人ですか。失礼な」
「悪い。流石に今のは言い過ぎたかもしれない」
「エロ担当はエロ担当の、ヨゴレ芸人にはヨゴレ芸人のプライドがあります。一緒くたにしては双方に失礼と言うものです」
「こだわるのそこかよ」
意外とバラエティー番組にはうるさいイングリッドだった。




