▼61▲ 本人の希望しないリアクション芸人への道
その日は、四十五個目の紙風船を膨らませた所で時間切れとなり、
「昨日が二十個で、今日が二十五個。このままペースを上げて、一週間以内に三百個終わらせるわ」
と、生産性の向上を約束する工場長の様な事を得意げに言うグレタ。やっている事は非生産的にも程があるのだが。
「早く終わらせる事が目的ではない。作業を通じて技の理念を捉える事こそが大事なのだ」
いかにも武術の師匠っぽい事を言ってグレタを煙に巻き、エイジン先生はアランと稽古場を出ると、また例の倉庫に赴いて作戦会議に取り掛かる。
「昨日の件ですが、必要な物は来週までに全て手配出来そうです」
そう言ってアランは、手配する品物の具体的な資料と、問い合わせた業者とのやりとりをまとめたメモをエイジンに渡し、一つ一つ詳細を説明した。
「ご苦労さん。これでいいから早速手配を頼む。修行に入る前に組み立てて、上手く作動するかどうかテストする必要もあるし」
説明を聞き終えたエイジンが、資料とメモをアランに返しながら言う。
「それほど複雑な仕掛けでないので普通に機能すると思いますが、実際にやってみないと分からない事もありますからね」
「ああ、思わぬ不具合が出たりするが、それに一つ一つ対処していくのも工作の楽しい所だ」
「不具合でグレタお嬢様が大ケガをされてしまったら、楽しい所の話ではありません」
「どんなに安全に注意した所で、完全には事故を防げないぜ。運が悪けりゃそれまでさ」
「あまり無茶しないでください。こんな無意味な修行で事故に遭う位、バカバカしい事はありませんから」
「でも無意味な大仕掛けって楽しいよな。お笑い番組で、ワイヤーで吊るされた芸人が巨大な熱い鉄板の上で焼き肉を食べるのとか、もうその構図を見てるだけで笑えるし」
「グレタお嬢様は、リアクション芸人を目指している訳じゃありません」
「もちろん、体を張ったリアクション芸人は仕掛けが安全だから笑えるのであって、大ケガでもされたら視聴者はドン引きだ。一番いいのは、グレタ嬢がこんな修行に取り掛かる前に諦めてくれる事なんだが」
「諦めそうにないですね。今のままだと」
「なら、リアクション芸人になってもらうしかない。俺も鬼じゃないから、こんなひどい事はしたくないんだが」
「エイジン先生、顔が笑ってます」
この手のお笑い番組の司会は、ある意味悪魔になりきるのがお約束である。




