▼555▲ 医療事故を引き起こす為の二人の初めての共同作業
入口のドアに駅の案内板並にデカデカと「検体検査室」とレタリングされた部屋の前まで来ると、
「他の人はここで待っててくれる? 検査室には出来るだけ外からの汚れを持ち込みたくないの」
ヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーンはまだしも、リング家の御曹司であるブランドン君まで容赦なく汚れ物扱いして廊下に残し、エイジン先生とアラン君だけ引き連れて入室するヘディ先生。
白と半透明の黒を基色とした大小様々な検査機器の合間を縫って、部屋の片隅にある机まで二人を案内すると、
「弾丸の線条痕を見るならこれで十分でしょ。顕微鏡って言うより、デジタル拡大鏡に近いけど」
そこに置かれた、接眼レンズの代わりに液晶画面が付いている小さな顕微鏡を指し示した。
「いわゆるコイン顕微鏡ってやつか。じゃ、とりあえずこいつを映してみてくれ」
そう言って、先程診療室で見せた弾丸を手渡すエイジン先生。
「操作自体は簡単よ。観察する物を下に置いてスイッチを入れれば、すぐ映るわ」
ヘディ先生が慣れた手つきで顕微鏡を操作すると、その言葉通り、すぐに本体上部の液晶画面に弾丸表面の拡大画像が映し出される。
「おお、小さい割に結構鮮明だな。これでも十分だが、横にある大型ディスプレイでさらに拡大して見たい時は?」
「そのパソコンから顕微鏡用ソフトを起動すればいいわ。画像の調整とか保存も、そこからやった方が楽よ」
「結構な量の画像を撮る予定なんだが、保存先の容量は大丈夫か?」
「容量は十分あるけど、後で間違いが無い様に、関係無いデータは消しておいて。こっそり落としたエロ画像とか」
「そんなモン落とさねえよ! 仕事してるフリをしてアダルトサイトを閲覧してるダメサラリーマンか俺は」
「エロ画像を消そうとして他のデータも一緒に消さない様に気を付けてね。下手をすると重大な医療事故につながりかねないわ」
「そんなしょうもない医療事故で死んだら、死んでも死にきれんな」
「他の部署の医療データにもアクセス出来るシステムだから、あり得ない話じゃないのよ。とりあえず、ディレクトリは無闇に移動しない事。いいわね?」
「了解した。基本中の基本だ」
「終わったら、顕微鏡のスイッチだけ切っておけばいいわ。説明は以上よ。もう私がここにいなくても、あとは自分達だけで出来るでしょ?」
大雑把な説明だけして相手に仕事を丸投げし、自分はそれ以上関わろうとしないヘディ先生。
「ああ。分からない所があっても、多分何とかなるだろ」
大雑把な説明だけでいきなり仕事に取り掛かり、自分勝手なやり方で作業を進めようとするエイジン先生。
そんな医療事故が起こらない方が不思議な状況をお膳立てした後、
「じゃあ、私は診療に戻るから。後は好きにして」
と言い残し、その場から悠然と立ち去るヘディ先生。
それを見送ってから、
「遠慮なく好きにさせてもらうぜ! さてアラン君、早速捜査に取り掛かるとしようか!」
机の前にどっかと座り、マウスを手にすると、顕微鏡には目もくれず、
「まずはこの病院のシステムの探検だ!」
ディレクトリを移動しまくり、保存されている医療データを片っ端から大型ディスプレイで確かめ始めるエイジン先生。
「いや、そういう事をやるな、って言われたばかりでしょう!」
慌ててやめさせようとするアラン君に対し、
「いいんだよ! 俺は当主様からこの事件に関して全面的な捜査権をもらってるんだから!」
最高権力をバックにやりたい放題のエイジン先生。




