▼551▲ 人を欺こうとする者が持たなければならない重要な覚悟
エイジン先生の部屋の前まで来てみると、人が一人余裕で入れる位の大きな灰色のコンテナボックスが、廊下を傷付けない様に敷かれた白いウレタンマットの上に、でん、と置いてあり、
「今回はまた、随分と大荷物ですね」
ちょっと驚いた様子のアラン君。
「中身の半分以上は少年向けラブコメ漫画だ。厳選してタイトルを絞ったんだが、それでも二百冊近くになった」
しれっと言いつつ、部屋の入口の引き戸を開けて中に入るエイジン先生。
「二百冊も!?」
「基本を押さえるにはまだ少な過ぎる位だ。ま、審理までの暇潰しには丁度いい分量さ」
靴箱の上に用意しておいた古新聞の束を上がり框の上に広げて敷き、
「中に入れるの手伝ってくれ。結構重いから腰を痛めない様にな」
そこまでアラン君と二人がかりでコンテナボックスを運び込むと、
「中身の本格的なチェックはまた帰って来てからやるとして、とりあえず、お供えセットだけ持って行く」
蓋を開けて、荷物の一番上に置いてあった花束を手に取り、
「ん?」
その下にある物を目にして、一瞬動きが止まる。
「どうかしましたか?」
と尋ねるアラン君に、左手の人差し指を自分の口の前に立てて「何も喋るな」と制し、その人差し指をゆっくりとコンテナボックスの中に向けるエイジン先生。
そこにはぎっしり詰まった二百冊のラブコメ漫画と思しき梱包の上に、一丁のリボルバー式拳銃が載っていた。
ぎょっとした表情で大きく目を見開くアラン君に無言で花束を押し付けると、拳銃を取り上げてシリンダーを横に出し、弾丸の装填状況を確認するエイジン先生。
装填されている全六発中、一発だけ発射されている模様。
(まさか、これって、最初にドアを撃った拳銃じゃ……)
青ざめた顔で声にならない言葉を口パクで伝えようとするアラン君に対し、
「俺に対する挑戦状だろうな。だが、ドッキリを仕掛けていいのは」
不敵な笑みを浮かべつつ、シリンダーを元に戻し、
「逆ドッキリを仕掛けられる覚悟のある奴だけだ!」
どこかで聞いた事のある様な台詞を吐くエイジン先生。