▼550▲ お供え物と金縛りと弾丸の話題で盛り上がる婚活パーティー
「とりあえず、聞きたかったのはそれだけだ。ありがとよ」
パイプに見せかけたウグイス笛を懐にしまいつつ、ソファーから立ち上がるコスプレホームズことエイジン先生。
「お役に立てれば幸いです。それと言いそびれましたが、つい先ほどガル家から荷物が届いたので、エイジンさんのお部屋の前に運ばせておきました。後で中身の確認をお願いします」
悠然とソファーに腰掛けたまま、エイジン先生の奇行を興味深げに観察し続けるアンソニー。
「お、ちょうど良かった。病院に行って、またここへ必要な物を取りに来る手間が省ける」
「必要な物とは?」
「花と線香さ。心霊スポットの古井戸に供えてやろうと思って、頼んどいたんだ」
「意外と信心深いのですね」
「いや、俺は霊なんか信じちゃいないが、あそこの古井戸で騒いでた三バカが、『霊に取り憑かれた』ってすっかり信じ込んでるんでな」
他人事の様に言っているが、もちろんその三バカを騒がせた張本人はエイジン先生である。
「なるほど。一種の心理療法ですか」
「どっちかって言うと、霊感商法かもな。ありもしない恐怖に怯えているカモに、インチキな魔除けグッズを売りつける手口に近い」
「はは、そこまで行くと、カウンセリングではなく純然たる詐欺ですね」
「『人を見て法を説け』、さ。あいつらは理で諭すより、嘘で騙した方が効く」
堂々と己の悪行を正当化してから、アンソニーをロビーに残し、食堂へ向かうエイジン先生。
食堂ではアラン君、ブランドン君とヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーンが、婚活パーティーよろしく六人掛けのテーブルに男女で向かい合って座り、大皿に盛られた五平餅を食べている所で、
「それ食い終えたら、病院に行くぞ。途中で例の古井戸にも寄って行くから」
エイジン先生が今後の予定を告げると、
「絶対行かねえからな!」
「行くんならお前一人で行って来い!」
「ついでに呪われろ!」
まだ記憶に生々しい金縛りの恐怖が脳裏に蘇り、御曹司が目の前にいる事も忘れて、なりふり構わず声を荒げて心霊スポット行きを拒否するヤンキー三人娘。
「いいのか? 古井戸に花と線香を供えて、君達に憑いている霊の怒りを鎮めようと思ってたんだが、ま、そこまでイヤならやめておこう。引き続き三人で仲良く金縛りにあってくれ」
「何が『仲良く金縛り』だ、バカ野郎!」
「行くよ! 行きゃあいいんだろ、行きゃあ!」
「とっとと悪霊と縁を切りてえんだ、こっちは!」
エイジン先生の舌先三寸に惑わされ、結局言いなりになるヤンキー三人娘。
「まあ、そうあわてるな。霊は逃げたりしないから」
そう言って、大皿に盛られた五平餅をテーブルの横から、ひょい、と一本取り上げてかぶりつく、お行儀の悪いエイジン先生。
「病院へ何をしに行くんですか?」
三人娘の醜態とエイジン先生の不作法を気にする様子もなく、至極もっともな疑問を口にする御曹司ことブランドン君。
「弾丸を調べる為の顕微鏡を借りに行くんだ。今回の事件のキモは何と言っても、『一発目の弾丸は、どの拳銃から発射されたのか』だからな!」
「二発目は間違いなく僕の拳銃からですが」
自虐気味に微笑むブランドン君。
「その二発目と一発目の線条痕を比較すれば、一発目がブランドン君の拳銃から発射されていない事が証明されて、事件は否応なく振り出しに戻る。そこで一発目を撃った犯人に全ての罪状を背負わせて、ブランドン君の件はうやむやにしちまおうって寸法だ」
「そう上手く行くでしょうか?」
「大丈夫、人を煙に巻くのは俺の得意分野だ!」
碌でもない事を誇らしげにドヤった後、
「これから俺とアラン君はガル家から届いた荷物をチェックするから、皆先に車に乗って待っててくれ。チェックが終わり次第、すぐ行く」
と言い置き、心配そうに緑茶を啜っていたアラン君を引き連れて自分の部屋へと向かう途中、
「あのヤンキー共にとっちゃ、ブランドン君が弱ってる今こそがアピールする絶好の機会なんだが、多分気付いてないだろうな」
五平餅を歩き食いしながら呑気にのたまうエイジン先生。
「いや、今は婚活してる場合じゃありませんって!」
訳が分からぬままツッコミを入れる事しか出来ない心配性のアラン君。




