▼549▲ 自分が丹精込めて描いた作品がいつの間にかネット上で「見ると発狂死する絵」として有名になっていた時の複雑な心情
「はは、これはあくまでも私個人の当て推量に過ぎませんよ。芸術作品を鑑賞しながら、その作者の心情や制作された背景について、あれこれ想いを巡らせる様なものです」
軽く笑って大層な事を言い出すアンソニー。
「ヲタがアニメを見ながら、『こんだけストーリーとキャラを改変されまくったら、絶対原作者はブチ切れてる』とか、『作監多かったから、スケジュールがかなりヤバかったんだろうな』とか、あれこれ妄想するみたいに?」
それをおかしな方向へ混ぜっ返すエイジン先生。
「そんな所です。どの様なジャンルであれ、自分の好きな作品を考察したくなる気持ちに変わりはありません。犯罪というジャンルにおいてもまた然り、です」
「犯罪の考察って楽しいよな! 何か事件が起こるとネット探偵共の推理合戦が始まったり、未解決事件を扱ったサイトをついつい長時間見入ったりとか」
不謹慎な事を楽しそうに語るアンソニーとエイジン先生。二人共ある意味典型的なネット民。
「日常の轍を踏み外した非日常的なシチュエーションはとても魅力的ですからね。多くの人が魅了されるのも無理はありません」
「魅了され過ぎた挙句、ロクな根拠もないのに無実の人を犯人だと決めつけて、誹謗中傷で逮捕されるアホも多いけどな」
「その場合、犯罪自体が見た者の人生を狂わす程の魅力を持った芸術作品だった、とも言えるでしょう」
「芸術というよりオカルトに近いな。『見ると発狂死する絵』とかの。ああいうのを見ても発狂死した事ないけど」
「自分で自分が発狂しているかどうかを判断するのは難しいですよ。過去の私の患者の中にも、『自分は狂ってなどいない!』と言い張る狂人が少なからずいましたから」
「俺もその一人だと?」
「はは、失礼しました。言葉の綾です」
「やめてくれ。プロの精神科医にそういう事言われるとドキッとするわ」
「万が一狂っていたにせよ、日常生活に重大な支障がなければ治療する必要はありませんし」
「見た目と言動はキモくても無害なヲタだったらそっとしておいてあげるのが道理ってやつだな! もっとも」
そこで言葉を切って、インヴァネスコートの懐から大く曲がりくねったキャラバッシュパイプを取り出し、
「一般の人に直接迷惑を掛けるヲタはバシバシ取り締まるべきだが」
口に咥えて名探偵気取りのエイジン先生。
「おや、煙草はおやりにならないと思っていましたが」
意外そうに尋ねる、嗅覚が鋭いアンソニー。
「ああ、お察しの通り吸わねえよ。これはパイプに見せかけたウグイス笛だ」
パイプを吹いて、『ホー、ホケキョ』、と鳴らしてみせるエイジン先生。
「なるほど。常に人の意表を突くのがお好きなエイジンさんらしい小物です」
そんなくだらないイタズラにも一々感心してくれるアンソニー。