▼546▲ 行儀良く真面目に理科実験室でプレパラート割りまくって卒業する尾崎
「ま、ぶっちゃけ、弾丸を封印したら、そのままドアごと警察にコネのある知り合いに丸投げするつもりだったんだが。警察なら線条痕を調べるのも慣れてるだろうし、何より膨大なデータと照合するシステムを持ってるだろうから、一瞬で犯人が特定出来る可能性だってあったのに」
他力本願な計画が初手でポシャった事を臆面もなくボヤく、ホームズコスプレ姿のエイジン先生。
「残念ですが、リング家が警察の介入を許す事は絶対にあり得ません」
その様子を探る様な目で観察しつつ、計画の致命的欠陥を指摘するアンソニー。
「リング家には弾丸の線条痕を調べる装置はないのか?」
「ありません。証拠より当主の主観で全てが決定される世界なので、客観的な科学捜査にはあまり力を入れていないのが実情です」
「じゃ、DNA鑑定とか、指紋採取とか、ルミノール反応とかも?」
「やれない事はありませんが、使った事はありません。使っても意味がない、と言った方が正確ですね」
「犯罪捜査のレベルが十九世紀で止まってんな。ホームズ以前の推理小説かよ。デュパンとかルコック辺りの」
ホームズの格好のまま、マニアックにボヤくエイジン先生。
「確か、ホームズには指紋がテーマの作品もありましたね」
「『ノーウッドの建築業者』とかな。話に明らかな不備がある点でも有名だが、それでも名作だ」
「同感です。線条痕も弾丸の指紋の様なものと言えなくもありませんが、エイジンさんはどの様に調べるおつもりですか?」
「面倒くさいが、顕微鏡で弾丸を観察するか。倍率の低いやつでいい。対物レンズと観察対象を置く台の間に弾丸が入る十分な隙間があるやつな。病院に行けば、その手の顕微鏡の一つや二つあるだろ」
「最新式の物があるはずです。肉眼による観察だけでなく、パソコンにつないで画像を保存出来るタイプのものが」
「自分でやるより、いっそあんたに頼んだ方がいいかもな。元医者なら顕微鏡の扱いにも慣れてるだろうし」
「残念ながら、精神科ではほとんど顕微鏡は使いません」
「となると、ここは外科医の出番か」
患者相手にストリップで小遣い稼ぎをする痴女、もとい例の女外科医へ丸投げを企むエイジン先生。