▼544▲ 赤点ギリギリのテストの答案を見せ合って勝負する普段勉強しない小学生
「昔の推理小説に出て来る拳銃と言えば、とりあえず三十八口径リボルバーってイメージがあるよな」
そんな大ざっぱな理由で選んだ拳銃と弾丸を受け取り、スタッフに実際に銃を撃つ場所まで案内されるエイジン先生。
一通りの説明を受けた後、借りたイヤーマフとゴーグルを装着し、両隣を壁で仕切られたレーンに入り、作業用の机の上で装弾作業を行ってから、拳銃を両手で構え、
「来いよ! 銃なんか捨ててかかって来い! 俺は捨てないけど!」
卑劣極まる台詞をわめきながら二十五メートル離れた紙の的に向かって撃ちまくるエイジン先生。
全弾撃ち終わると、仕切りの壁に付いているスイッチパネルを操作して、天井のレールからぶら下がっている的紙を手前に引き寄せて取り外し、六発中二発しか当たっていないのを確認してから、
「ま、初めてにしちゃ上出来だ」
と自分を甘やかした後、さらに他のレーンで撃っていたヤンキー三人娘の的紙を持って来させて、
「仮にもプロの護衛のあんたらが、何でド素人の俺とそう変わらないレベルなんだよ! 特にベティ、拳銃使いの癖に、真ん中に一発も当たってねえじゃねえか!」
自分には甘いが他人には厳しいエイジン先生。
「うるせっ……! コホン、今日はたまたま調子が悪かったので」
素が出そうになるのをかろうじてこらえるギョロ目のベティ。
「私はナイフが専門ですので」
その専門でお前の喉笛掻っ切ってやろうか、とでも言いたげに睨むジト目のタルラ。
「ライフルの方が扱い慣れていますから。もし良ければ車から自分の銃を取って来ますが?」
リターンマッチを要求するギロ目のジーン。
「よし、もう一回やろうぜ。下手な鉄砲も何とやら、だ」
こうして一旦仕切り直し、新たな的紙をセットして再び撃ちまくる下手な鉄砲衆四人。
赤点ギリギリのテストの答案を見せ合って勝負する普段勉強しない小学生よろしく、その採点結果を持ち寄り、
「俺の勝ちだな。あんたらは仕事なんだから、もうちょっと真面目に練習した方がいいぞ」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
威張る程でもない低レベルな争いを僅差で制して煽るエイジン先生と、ものすごく悔しがって唸る負け犬三人娘。
特に自前のライフルまで持ち出して勝負に臨んだのに素人の拳銃に負けたジーンなどは、すっかり頭に血が上ってしまい、
「もう一回、もう一回やらせろ! いや、やらせてください!」
その姿は屋台の射的で景品を落とすまでやめようとしないバカ小学生そのものであった。
「ああ、この際だから納得の行く結果が出るまで好きなだけ撃て」
バカ小学生共にそう言ってから、レーンの後方で見ていたブランドン君の方に歩み寄り、
「屋敷の前で押収したブランドン君の自動拳銃の口径はいくつ?」
と尋ねる、銃を見ただけで種類を特定出来ない非ガンマニアのエイジン先生。
「九ミリです」
素直に答えるブランドン君。
「銃にはあまり詳しくないが、九ミリと三十八口径はほとんど同じ大きさだよな。って事は、俺が今撃ってたリボルバーの弾丸を、ブランドン君の拳銃で撃つ事は出来る?」
「無理です。径はともかく、薬莢が長くてマガジンに入りません」
「つまり空薬莢を見れば、わざわざ弾頭をほじくり返さなくても、どっちの拳銃で撃ったか区別がつくって事か」
「一目瞭然です」
「よし、実際に比べてみよう」
懐から薬莢の入った透明な小袋を取り出して自分のレーンに戻り、リボルバーから取り出した薬莢と見比べるエイジン先生。
「確かにリボルバーの方が長い」
「ええ、逆に自動拳銃の弾丸は固定金具を使えばリボルバーで撃てない事もないでしょうが、やった事はありません」
「ムーンクリップってやつか」
「それです。よく知ってますね」
全くの素人かと思えばヘンな所でマニアックな知識を持っているエイジン先生に驚くブランドン君。
「ありがとう、参考になった。さて、あいつらとの勝負に戻るとするか!」
そう言って、嬉々としてリボルバーに弾丸を装填し始めるエイジン先生。
その後、撃ち方のコツを会得してそこそこ的の中心に当てられる様になったエイジン先生に対し、ヤンキー三人娘は一度も勝つ事が出来ず、
「ま、気にするな。君達は護衛としては零点だが、お笑い芸人としては満点だ!」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
落ちこぼれの生徒を励ます学園ドラマの熱血教師の口調で思いっきり煽るエイジン先生に対し、ひたすら唸る事しか出来ないお笑い三人娘。