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▼543▲ 海外旅行に行ったらとりあえず実銃を撃ってみたくなるというおもてなしの和の心

「ところで一つ聞きたい事があるんだが。リング家の使用人の中で一番射撃が上手いのは誰だ? あ、お前らじゃない事だけは確かだから、無理にボケなくてもいいぞ」


 ヤンキー三人娘に無礼な質問をするエイジン先生。


 いつもなら、「一言多いんだよ、テメェは!」などと食ってかかる所だが、流石に御曹司の前なので、使用人らしく取り澄ました表情で、ただし「ナメてっと殺すぞ」と言わんばかりの目つきで、


「執事のグレゴリーです。射撃場で撃っているのを時々見かけますが、狙いは正確で、弾痕のばらつきもほとんどありません」


 拳銃使いのベティが答えた。


「へえ、そりゃ意外だな。あのオッサンは武器とは無縁の善良な紳士かと思ってたよ。あんたらと違って」


 またもや一言多いエイジン先生。


「彼女の言ってる事は本当です。グレゴリーは学生時代に射撃の大会で優勝した事もあるそうですから」


 横からフォローを入れる善良な紳士のブランドン君。


「グレゴリーの次に上手いのは誰だ? あ、こいつらじゃない事は分かってる」


 しつこい位に一言多いエイジン先生。


「警備員の内の誰かでしょうね。射撃場のスタッフに聞けば、詳しく教えてくれると思いますが」


「射撃場があるのか? じゃあ、今からそこへ行ってみよう。ついでに俺も本物の拳銃を撃ってみたい」


 海外旅行に行く日本人観光客の様な事を言い出すエイジン先生。


 さらに、言いたい事も言えないこんな状況に内心ポイズンなヤンキー三人娘の方に向かい、


「ついでだから、ぜひ君達も撃ってみてくれ。もし上手かったら、今後一切おちょくったりしないと約束しよう」


 紳士ぶった口調で舐めくさった提案をするエイジン先生。


 言いたい事は鬼の様にあるだろうに、


「承知しました」

「喜んでやらせて頂きます」

「どうぞお確かめください」


 無理やり取り澄ました顔のまま答えるベティ、タルラ、ジーンことヤンキー三人娘。


 それから胴長リムジンで森の中を行く事約十分、一行は森を大きく切り拓いた広い場所にあるバッティングセンターとボウリング場、もとい一見そんな風にも見えるリング家の私設射撃場までやって来た。


 コンクリで塗り固められた高さ五メートル程の切り立った崖に向かって横一列に並んで撃てる、クレー射撃用の設備がある屋外射撃場と、余計な装飾の無い白くて長くて平べったいカステラの箱の様な建物の屋内射撃場とが隣接しているのである。


 屋内射撃場の建物に入ると、受付カウンターにいた五十代位の男性スタッフに、


「当主の依頼で夕べの事件について捜査をしているんだが、いくつか質問に答えて欲しい」


 シャーロック・ホームズのコスプレという冗談にしか思えない姿のまま話し掛けるエイジン先生。おまけにその背後にはワトソン博士のコスプレをしたアラン君までいる始末。


 このコントじみた探偵ごっこスタイルに「ふざけんな帰れ」と怒鳴る事もなく、さらに後方にいるリング家の御曹司ブランドン君の姿を、ちら、と認め、


「何なりとどうぞ」


 一応、真面目な捜査と判断したのか、かしこまった口調で答えるスタッフ。


「リング家の使用人の中で一番射撃が上手いのは誰だ?」


「執事のグレゴリーです。あの人の腕前は群を抜いています」


「グレゴリー以外では?」


「数段落ちますが、警備員のロバート、フィリップ、ボブ辺りでしょうか。実際に撃った的紙が何枚かありますので、お見せしましょうか?」


「見せてくれ。比較用にグレゴリーのも」


「承知しました」


「それと、警備の最高責任者のアンソニーの腕前はどうなんだ?」


「割と上手い方だと思います。では、そちらも持って来ますね」


 そう言って一度カウンターの奥の事務室に入り、すぐに数枚の的紙を持って戻って来たスタッフが、それらをカウンターの上に並べ、


「こちらから、グレゴリー、ロバート、フィリップ、ボブ、アンソニーの順です」


 淡々と指差して行くと、


「一目瞭然だな。グレゴリーのは的の中心にエグい位穴が密集してる。三人の警備員もグレゴリー程じゃないが、バラつきが少ない。アンソニーは……」


 じっと観察した後に、


「まあ、上手いんだろうけど、他のに比べると結構バラつきがあるな。比較の為に、俺とあの三人もこれと同じ的を撃たせてもらっていいかな?」


 後ろのヤンキー三人娘を指差して尋ねるエイジン先生。


「どうぞ。銃はお持ちですか?」


「いや、一人だけ拳銃を持ってるが、後は手ぶらだ」


「では、そこのショーケースの中からお好きな銃を選んで、その番号をお名前と一緒にこの用紙へ記入してください。すぐにご用意致します」


 そう言って、カウンターの端に置いてある用紙の束を指し示すスタッフ。


「分かった。さて、どれにしようかな♪」


 宝石店でショーケースの中のきらびやかな装飾品に目を輝かせる女性客の様に、受付カウンターの横にあるショーケースの中の大小様々な銃に目を輝かせるエイジン先生。


 その様子があまりにも楽しそうなので、


「捜査に関係あるんですよね?」


 と釘を刺さずにはいられないアラン君。


「もちろんさ! アラン君も撃つかい?」

「結構です!」


 訳がわからないままホームズに振り回されるワトソンそのもののアラン君。

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