▼535▲ カチコミに失敗して捕獲された後に東京湾へ沈められる鉄砲玉
当主の屋敷へのカチコミを許してしまうという、警備の責任者にとってトップクラスの大失態を演じてしまったにも拘わらず、
「とりあえず、停電していた間のエイジンさんの行動についてお聞きしてもよろしいですか?」
特に動揺した様子もなく、いつもの穏やかな口調で尋ねるアンソニーに対し、
「別に構わんけど。このまま電話で話せばいいのか?」
対岸の火事を見物する無責任な野次馬よろしく、いつものすっとぼけた口調で答えるエイジン先生。
「いえ、そちらのお部屋で直接伺います。お着替えの余裕をみて、十分後ではどうです?」
「今すぐ来てくれていいぜ。話すだけなら特に着替える必要もないだろ」
そんなやりとりを経て、部屋にやって来たいつもの制服姿のアンソニーと、寝起きの浴衣姿のままのエイジン先生がテーブルを挟んで話し合うという、昭和の寝起きドッキリ番組に近い絵面の事情聴取が始まった。
「昨晩停電になった時、エイジンさんはどこで何をされてましたか?」
手帳を開いてペンを構えつつ、単刀直入に尋ねるアンソニー。
「この部屋でガル家に電話してたよ。通話履歴を見せようか?」
そう言って自分の携帯を取り出すエイジン先生。
「拝見します」
エイジン先生から手渡された携帯の画面を見て、手帳に何か書き込んだ後、
「停電とほぼ同時に通話を終了されてますね」
「話の途中で突然電話回線が切れないとも限らないから、手短に切り上げたんだ。その後は朝までずっとヴィヴィアン様に提出する動画の編集をやってたよ。ノーパソなら停電でも関係ないからな」
「分かりました。ご協力ありがとうございます」
そう言って、携帯を返すアンソニー。
「そもそも、いつ屋敷が襲撃されたんだ?」
「停電で警備のシステムが落ちていた間、としか言えません。激しい雷鳴のせいで、誰も銃声を銃声と認識出来なかったものですから」
「じゃ、銃撃犯を目撃した人も」
「いません。朝になって屋敷の使用人が正面玄関のドアの弾痕を発見し、ようやく襲撃に気付いた次第です」
「ドアに弾痕か。ますます暴力団のカチコミっぽくなって来た」
「報告を受けてすぐに、リング家の森から誰も逃がさぬ様、警戒網を強化しました」
「逃げられた後だったら、意味無いけどな」
「その通りですが、まだ森の中に潜んでいる可能性も捨て切れませんので」
「だな。まあ、あんたも苦しい立場だろうが、早く犯人を捕まえて名誉挽回出来るといいな。ただ、くれぐれも無実の人間を犯人に仕立て上げたりするなよ」
「残念ながら、それを決定するのは私ではなく当主の権限です。真相がどうあれ、犯人だと当主が判断した者が犯人という事になります。私は調べた情報をまとめて報告する役に過ぎません」
「つくづく無茶苦茶な所だなここは」
「政治的判断から、無実の人間を犯人に仕立ててメンツを保つ場合もあるでしょうし」
「それ、あからさま過ぎると逆効果だぞ」
「問題ありません。ここでは当主がシロと言えばシロ、クロと言えばクロなのですよ」
「やっぱ暴力団だわ」
当主がその場にいないのをいい事に失礼な事を言いまくるエイジン先生。