▼528▲ そこそこヒット曲を持っていても一発屋としか認識されない悲劇
昭和のスペシャル特番に出て来る探検隊の如く仕掛けられた罠にことごとく引っ掛かりながらも、廃病院内の調査を何とか終えてロビーに戻って来たヤンキー三人娘に、
「ついさっきブランドン君から電話があってな、もう学校から帰ってるそうだ。つー訳で屋敷まで車で迎えに行って来い」
休む暇を与えず、即座に次のミッションを与えるエイジン先生。
色々な意味で疲れ切ったヤンキー探検隊がぶつくさ言いながら胴長リムジンで迎えに行った後、
「ブランドンさん、今日はバイクで来ないんですか?」
素朴な疑問を口にするアラン君。
「天気予報だと、今晩この一帯は大雨になるらしい。バイクで来ると帰りが面倒だろ」
ノートパソコンの画面に映し出された雨雲レーダーをアラン君に見せるエイジン先生。
「ああ、なるほど。結構細かい所まで気を遣ってるんですね」
「ドッキリ仕掛け人たる者、刻一刻と変化する現場の状況にも臨機応変に対処するのは基本だぜ」
「まさかこの大雨を利用して、またあの三人にドッキリを仕掛けるんですか?」
「いや、夜の雨のシーンは暗過ぎる上に、照明光が雨粒で乱反射するから動画向きじゃない。今日の分のドッキリはもう十分撮れたし、あいつらはカウンセリングが終わるまで魔除けの音楽でも聴かせて車の中に放置しとこう」
「何か真夏の駐車場に長時間幼児を置き去りにする毒親みたいになってます、エイジン先生」
「ちなみに今日の魔除けの音楽のテーマは『八十年代の一発屋』だ。ルビーの指輪を捨てさせたり、眼球にキスをしろと迫ったり、結婚式に元カノを呼んで一番後ろの席に座らせたり、ダイナマイトが微笑んだり、ロマンチックが制御不能になったり、全ての天使が翼を骨折したり、キウイとパパイヤとマンゴー呼ばわりされたり、実にバラエティーに富んでいる」
「そこだけ聞くと訳が分かりません。電波ソングですか?」
「いずれも時代を越える名曲ぞろいだぞ。一発屋と言っても実際には他に何発かヒットさせてる方が多いんだが、その一発があまりにもインパクトがあるから、どうしても色眼鏡で見られてしまいがちになる」
そんなどうでもいい話をしている内に胴長リムジンが戻り、黒地に白い線でリアルなカラスの絵が描かれたTシャツに、黒いジャケット、黒いジーンズ、黒のバッシュという、黒づくめのブランドン君がロビーに姿を現した。
「今日は病院ですか。場所をこまめに変えるのは盗聴対策ですね?」
人懐っこい笑顔で尋ねるブランドン君。
「ああ、主に君ん家のお母さん対策だ。息子の恋バナという一番参加したい話題なのに、自分だけ蚊帳の外ってのは滅茶苦茶やきもきするだろうからな」
リング家において生殺与奪の権を持つ当主を軽く茶化すエイジン先生。
「上手く母の誤解が解ければいいんですが」
「その為の作戦会議さ。でも、ブランドン君を言いくるめると見せかけて、その実ヴィヴィアン様を言いくるめる方法を検討してる事がバレたら、俺とアラン君は逮捕されるかも」
「本当にやりかねません。秘密厳守で行きましょう」
笑い合うエイジン先生とブランドン君とやや青ざめた表情のアラン君の三人は、その日のカウンセリング会場に選んだ、五階にある大きな病室へと向かった。
病室の入り口のドアには、学ランを着て鉢巻をした昭和ヤンキー風の猫の写真のポスターが貼ってあり、
「やっぱり、八十年代と言えばコレだ。流行った期間は短かったが、その瞬発力たるや凄まじいものがあった」
一発屋に謎のこだわりを見せるエイジン先生。