▼527▲ 離れた場所にいるサルを驚かせる実験
自分達の扱いに納得がいかないと抗議するヤンキー三人娘をいつもの様に適当に言いくるめて再び廃病院内の探検に送り出した後、
「これも教育的指導だ。最初にドッキリを一発カマす事で、あいつらの注意力と観察力を向上させてやったんだ」
受付カウンターで隣に座っているアラン君にしたり顔で説明するエイジン先生。
「面白半分でドッキリを仕掛けていた様にしか見えませんでしたが」
絶対嘘だ、と言いたげな表情で突っ込むアラン君。
「面白半分、実用半分さ。そもそもあいつらを探検させてるメインの目的はドッキリじゃなく、盗聴されてないかどうかを調べる事だから」
「そうだったんですか? でも場所をここに変更したのはついさっきですし、先回りして盗聴器を仕掛けられますかねえ?」
「病院ってのはナースコールが張り巡らされてるから、うまく利用すれば改めて盗聴器を仕掛ける必要もない。さらに厄介な事に、古い病院のナースコールは無線じゃなく有線だから、電波を検知する盗聴器探知機にも引っかからない」
「じゃ、例の機械が役に立たないんですね」
「そこであの三バカを人力探知機として有効活用する。言わば捕虜を使った地雷撤去作業みたいなもんだ」
「戦時国際法に違反してませんか、それは」
「あいつらが何か見落としても、動画を撮らせておけばこっちで確認出来るし」
「それなら最初からドッキリでなく、そういう仕事だと教えておいても良かったのでは?」
「仕事だとすぐサボろうとする連中だからな。むしろ純粋なドッキリだと思わせておいた方が真剣に見回ってくれる」
「完全にあの人達の性格と行動パターンを分析した上でやってたんですね……実験用の動物みたいに」
「まあ、俺も鬼じゃない。仕事ばかりじゃ可哀想だし、遊びの要素もサプライズで入れてある」
二人がそんな話をしている頃、ベティ、タルラ、ジーンことヤンキー三人娘は二階の巡回を終えて、三階へ上がり、
「油断するな。まだ何か仕掛けてるに決まってる」
「噂をすりゃ何とやらだ。何か廊下の真ん中に落ちてるぜ」
「その向こうにはハンディカメラが三脚で固定されてるな。あの野郎、アタシらを実験用のサルか何かだと思ってないか?」
もう罠だと隠す気もない、むしろサルに天井から吊るしたバナナを取らせる実験並に単純なサプライズと対峙している所だった。
まずベティが自分のハンディカメラで廊下に落ちている物体をズームし、
「また手だ!」
そこに映し出された、まるで手首から切り落したばかりの様なフレッシュな血塗れの手の映像を他の二人にも見せる。
「つーか、血塗れのくせに、周りの床に血が一滴も落ちてねえじゃねえか。やる気あんのかよ」
そのスプラッタな映像にちょっと引きつつも、冷静に矛盾を指摘するタルラ。
「あのカメラの前で、『こんなのにビビるか、バーカ!』って、煽ってやろうぜ!」
今まで騙されて来た恨みに一矢報いようと、他の二人をカメラの前に誘導するジーン。
「オマエ、脳ミソ足りねーんじゃねえか?」
「同じ手に二度もダマされるかっての!」
「ごていねいに、カメラまで設置したのに、残念だったなあ!」
そんな風にヤンキー三人娘がカメラに向かってはしゃぎまくっていた時だった。
足元に落ちていた血塗れの手が、彼女達に向かって床を滑る様にスゥーッと動いたのは。
「ウアアアアアア!」
「キャアアアアア!」
「イヤアアアアア!」
奇声に近い悲鳴を上げながら、弾かれた様に廊下をダッシュで逃げるヤンキー三人娘。
一方、このモーター付きの血塗れの手を一階受付のカウンターからリモートコントロールしていたエイジン先生は、固定カメラからノートパソコンへ中継されている彼女達のリアクションに腹を抱えて笑った後、
「やっぱり、あいつらに憑いてるのは悪霊じゃなくて、お笑いの神様だ!」
ある意味最上級の讃辞を惜しみなく三人に与えていた。




