▼525▲ 暗黒面に堕ちたBGMと共にお笑い芸人へ過酷な指令を下すプロデューサー
「ヴィヴィアン様も、君達の動画をとても楽しみにしておられるぞ」
黄門様の印籠よろしく当主の名を持ち出してヤンキー三人娘から抵抗力を奪い、無力感に囚われて目から光が消えた彼女達に車で案内させ、取り壊し予定の廃病院までやって来た悪魔の様なエイジン先生。
廃病院と言っても外観はさほど古びておらず、内部も一昔前の様式ではあるものの手入れが行き届いており、さっきまでいた病院程の新装感はないが、まだまだ普通に使えそうである。
「もっともパソコンが5インチのフロッピーディスクドライブ内蔵型で、ディスプレイもブラウン管な辺り、時代に取り残された感ありまくりだけどな」
誰もいない受付のカウンターに置きっぱなしの古そうなデスクトップパソコンを見ながらしみじみとつぶやくエイジン先生。
「システムをちょこちょこいじって無理に延命を図るより、最新のインフラが用意された病院へ一気に移る方が色々と効率がいいんでしょうね」
そのパソコンと有線接続されている古ぼけたマウスを手に取って引っくり返し、一般的な光学式でなく今や絶滅危惧種のボール式である事を確認するアラン君。ちなみに接続端子も四角いUSBでなく、丸いPS/2という筋金入りの年代物。
「町工場とかだと逆に古いパソコンでしか動かせない工作機械とかザラにあって、あえてアップグレードしてない場合もあるらしいけどな。その機械じゃないと要求された精度が出せないとか」
「エイジン先生の故郷には、そういった町工場にすごい技術を持つ神職人がいたりするそうですね」
「まあ、そういう下町の神々もどんどん減っていくだろう。町工場どころか大手メーカーの大工場までじわじわ消滅しつつあるからな」
と、かつて工業大国だった日本の厳しい現実を憂いつつ、
「それはさておき、もう少し暗くなったら病院探検を始めようか。あんたらはここを出発して、一階から屋上まで各階ごとに端から端まで見て回るんだ。その一部始終をハンディカメラで実況中継するのも忘れずにな。簡単だろ?」
ヤンキー三人娘にも厳しい指令を与えるエイジン先生。
「や、やるなら、今、明るい内にやっちまおうぜ!」
「ほら、暗いとカメラ映りが悪いだろ!」
「早く済ませりゃ、カウンセリングの時間とも被らないし!」
指令を拒否出来ないならば、せめてまだ明るい内にやらせてくれと必死に提案するベティ、タルラ、ジーン。
「そうか、君達がそこまで言うのなら仕方ない」
にべなく却下するかと思いきや、この提案をあっさり承諾して、一人一台ずつハンディカメラを渡し、自分は受付に座って、持参したノートパソコンをカウンターに置き、
「俺達はここで君達が撮っている映像をリアルタイムでモニターしてるから、安心して行って来い。何もないとは思うが、何か変わった事があったらしっかり撮っておけ」
不穏なフラグを立てるエイジン先生。
「『変わった事』って何だよ!」
怯えた表情で問うベティ。
「『妙だな』って思った事全部だ。その場では分からなくても、後で画像をよく見たら気付く事もあるだろう。あるはずのない物があったり、いるはずのない者がいたり」
「普通にやべえだろ、それ!」
怯えた表情で叫ぶタルラ。
「むしろオイシイと思え。ビビリのリアクションをとりつつ、きっちり撮影するのも忘れるな」
「そんな冷静に出来るか!」
怯えた表情で抗議するジーン。
「『出来るか』じゃなくて、『やる』んだよ」
悪い笑顔でそう言った後、
「ヴィヴィアン様もきっと喜ぶぞ」
再び印籠を持ち出し、三人娘の逃げ道をしっかり塞ぐエイジン先生。