▼524▲ お宝の鑑定結果にショックを受けた依頼人の精神がズタズタになる瞬間を眺める愉悦
MRIで頭の中身を撮ったヤンキー三人娘が診察室の前に戻り、不安そうな面持ちで長椅子に座って、
「アタシら大丈夫だよな、な? 」
「医者だって、脳に異常はない、って言ってたし!」
「MRIで撮ったのも、念の為だろ?」
遭難して身動きが取れなくなった登山者よろしく、必死に互いを励まし合っているのを見て、
「驚きの鑑定結果はCMの後で!」
すかさず横から混ぜっ返すエイジン先生。
「るっせえな! 他人事だと思いやがって!」
少し涙目でキレるベティに対し、
「他人事だしー」
もちろん、お約束で返すエイジン先生。
そんな一触即発のやりとりをハラハラしながらアラン君が見守っていると、ついに診察室から、
「ベティ・デンパスさん、タルラ・バクァヘッドさん、ジーン・アーパーさん、中へどうぞ」
と呼ぶ声がした。
一同が中に入ると、MRIで撮ったばかりの三人分の脳の輪切り画像が、机の上の液晶ディスプレイに映し出されており、これについてヘディ先生が、
「画像を見る限り、三人共どこも悪い所はないわ。健康そのものよ」
めでたく全員シロという診断を下し、安堵の吐息を盛大に漏らすヤンキー三人娘。
「金縛りの原因は、おそらく精神的なストレスね」
「やっぱり、コイツが原因か!」
「おかげでこっちはえらい目にあったんだぞ!」
「もう、心霊スポットとかドッキリとか御免だからな!」
そして改めて呼び覚まされるエイジン先生への怒り。
「分かった、分かった。今日のカウンセリングでは心霊スポットを使うのはやめるから」
無視するかと思いきや、妙に物分かりのいいエイジン先生。
「本当だろうな!」
「嘘だったら、承知しねえぞ!」
「その時はもう運転しねえからな!」
「実は君達を待ってた間に、別の場所を使う許可を取っておいた。既に鍵も借りてある」
鍵束を作務衣の懐から取り出し、三人に見せつけるエイジン先生。
「随分手回しがいいな」
「鍵を借りたってことは、旅館じゃねえのか」
「一体どこでやるんだよ」
「取り壊し予定の廃病院だ。ネットで調べても心霊スポットという噂はなかったから、君達も安心だね!」
「え」
「え」
「え」
「誰もいない夜の廃病院って、すごく静かで心が落ち着くだろ? 」
「落ち着かねーよ!」
「静か過ぎて逆に不気味だろ!」
「今までと何も変わらねえじゃねえか!」
喚き散らすヤンキー三人娘に対し、
「あなた達、もう帰っていいわよ。お大事に」
さっさと出て行け、と言わんばかりに冷淡な口調で告げるヘディ先生。
「ありがとうございました、先生。さ、皆さんも出ましょう」
あわてて申し訳なさそうに礼を言い、迷惑な患者と迷惑な付き添いに退出を促すアラン君。こういう時は良識がある人間ほど割を食う。
「ところで、アラン君はあんたのワンマンショーには誘わないのか?」
礼も言わずに失礼な事を聞くエイジン先生。
「だってこのイケメン君、絶対女に不自由してないでしょ。あなたと違って」
アラン君をダシにしてエイジン先生をディスるヘディ先生。
「ギャハハ、言われてやんの!」
「金払わないと、女に相手にされねータイプだよな!」
「アタシなら大金積まれても御免だわ!」
笑顔を取り戻す、感情の起伏が激しいヤンキー三人娘。
「おや、君達すっかり元気になったみたいだね。じゃあ、今夜は廃病院の中を探検しようか!」
負けじと爽やかな笑顔でこれに応じるエイジン先生。
「やらねーよ!」
「何、しれっとロクでもねえ提案してるんだよ!」
「ちったぁ、反省しろ!」
一瞬で笑顔が消えたヤンキー三人娘。
エイジン先生と一緒にいる限り、どうあがいても精神的なストレスからは逃れられない模様。