▼523▲ 金でおびき寄せたダメ人間を成り上がりの虎がよってたかって説教する番組
安っぽいエロで釣ってじゃぶじゃぶ課金させる戦略がエイジン先生に通用しないと見るや、
「じゃ、そっちの三人、前に来て。最近、急に手足に力が入らなくなったり、呂律が回らなくなったり、物が二重に見えたりすることはある?」
何事もなかったかの様に、ヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーンの診察に取りかかるヘディ先生。
「ない」
「ない」
「ない」
自分は重病かもしれない、という不安に内心ビクビクしつつ、虚勢を張ってあえてぶっきらぼうに答えるヤンキー三人娘。
「両腕をこう、前に伸ばしたまま保持出来る?」
「楽勝」
「余裕」
「出来ねえ方がおかしいだろ」
前に突き出したヤンキー三人娘の両腕が、下がらずに数秒間そのままでいられたのを確認して、
「はい、もう下ろしていいわ。三人共、脳に異常はなさそうね」
手抜きなんじゃないかと思う位あっさりと診断を下すヘディ先生。それを聞いて三人娘がほっとした所へ、
「病気じゃなく、こいつらの脳自体が元々異常って可能性は?」
すかさず茶々を入れるエイジン先生。
「んだと、コラ!」
「誰が異常だ!」
「てめえの性格の方がよっぽど異常だろ!」
一斉に振り返って吠えまくるヤンキー三人娘。
「念の為に頭の中も調べるから、この用紙を持って廊下の突き当たりにあるMRI検査室に行って、一人ずつ撮影してもらって来て」
エイジン先生の質問に対して否定も肯定もせず、淡々とヤンキー三人娘に指示を与えるヘディ先生。
不満げに吠えまくる三人娘を検査室へ追いやってから、正面玄関のすぐ側にある自販機コーナーに行き、
「一人二十分として、全員の撮影が終わるまで大体一時間か」
ソファーに腰掛けて、缶コーヒーを飲みながら寛ぐエイジン先生と、
「レントゲンと違って、MRIは結構時間がかかりますからね。機械の中で横になるので、それほど負担はないですけど」
その隣でペットボトルの紅茶を飲むアラン君。
「あいつら、夕べよく寝れなかったらしいから、すぐに眠りこけちまうだろうな。で、また金縛りにあったりして」
「地獄の無限ループですか」
「まあ、撮影中は体を動さない方がいいから、金縛りにあう位でちょうどいいのかも」
「そういう問題じゃないと思いますが」
「でも、MRIがある病院を個人で持ってるってすげえな。他にも色々と最新機器が揃ってたし」
「リング家の魔女は基本、外の世界に出られませんからね。病気になったら、この森の中で一通りの治療を受けられる様にしておかないと」
「だな。けど、それだけ充実してる割に、利用者が少ないのはもったいないな。現に、ロビーには俺達しかいない」
「入院している人は結構いるはずです。リング家の病院は、魔法による傷害を負った特殊な患者を外部から受け入れてますから」
「ああ、そっか。ここなら魔法が無効化されるんだった」
「はい。魔力でじわじわと患者を死に至らしめる呪いとか、無理に摘出しようとすると攻撃魔法が発動する弾丸とか、ここなら安全に解除出来ます」
「魔法で出来た傷も治せるのか?」
「傷とか骨折とか、物理的に変形してしまったのは無理ですね。ここで魔法を解除してから、森の外に出て治癒魔法をかけないと」
「あるいは、ここで入院して普通に回復するのを待つ、か」
待ち合いロビーの向こうにあるエレベーターから出て来た、両足にギプスを付けた車椅子の中年男性を見ながら言うエイジン先生。
「はい、時間をかけて回復させた方が、治癒魔法で無理やり治すよりいい場合もあります。少し回復してから治癒魔法をかけた方がいい場合も――」
「その辺は、ケースバイケースね」
いつの間にか二人の背後に立っていたヘディ先生に声をかけられ、驚くアラン君とは対照的に、
「あんたも休憩か」
大して驚いた様子もなく、振り向いて見上げるエイジン先生。
「ええ、今は患者が来なくてヒマなのよ」
そう言いながら自販機の前に行き、ペットボトルの緑茶を買うヘディ先生。
「車椅子の人はあんたの患者じゃないのか。診察室の方へ向かってたぞ」
一応聞いておくエイジン先生。
「少し位待たせても平気よ」
「いや、よくねえだろ。早く行って診てやれよ」
「まあまあ、エイジン先生。お医者さんにも休憩時間をとる権利はありますから」
あわててフォローを入れるアラン君。
「今は全然休憩時間じゃないんだけどね。仕方ない、行くか」
まだ開けてないペットボトルを片手に診察室へ戻って行くヘディ先生。
「大丈夫か、この病院」
その後姿を見ながら、呆れたようにつぶやくエイジン先生。
「あ、そうそう。気が変わって、私のカラダが見たくなったら、お金を用意しておいて」
振り返らずに言うヘディ先生。
「ノーマネーでフィニッシュです」
すかさず言い返すエイジン先生。




