▼522▲ 保健室の先生がウブな男子生徒を誘惑するエロゲ
受付を済ませた一行が、「外科」と「脳外科」と書かれた二枚のスライド式プレートが掛かっている診察室の前で待機用の長椅子に並んで座って待っていると、
「ベティ・デンパスさん、中へどうぞ」
入口を仕切るカーテンの向こうから、担当医と思しき女の声がした。
「あーあ、アタシが一番手かよ」
ぶつくさ言いながら、渋々立ち上がるベティ。
「いや、この際三人一緒に診てもらおうぜ。その方が手っ取り早い」
そう言って立ち上がり、まだまだ余裕があると思って油断していたタルラとジーンを焦らせるエイジン先生。
「何でだよ!」
「こういうのは一人ずつだろ!」
普段の粗暴な振る舞いとは打って変わって、急にマナーが良くなるタルラとジーン。自分に都合が良ければ、自分勝手なヤンキーも優等生に早変わりするのである。
「いちいち付き添って説明するのが面倒くさいんだよ。時間と手間の節約だ、ほらほら」
「お前の都合じゃねーか!」
「ってか、診察室について来るのかよ!」
「アタシらの裸が目当てか、このスケベ野郎!」
「あんたらが服を脱ぐ必要がある時は外に出てやるから安心しろ。まあ、首から上の疾患だと脱がないとは思うが。ともかく、医者に症状を的確に説明するのはパニクってるあんたらじゃ無理だ。代わりに俺がやってやるから、ありがたく思え。ついでだから、アラン君も来い」
反論する隙を与えず、牧羊犬が羊の群れを追い立てる様に、ヤンキー三人娘とアラン君を診察室へ追いやるエイジン先生。
自分が呼んだ五倍の人数が一度に診察室へ入って来たのを見て、
「付き添いは最小限の人数でお願いします」
デスクを背にして黒い革張りの回転椅子に座っていた女医が、パンデミック下におけるレジの並び方の様な指導をする。
女医は年の頃は三十そこそこ、マネキン人形の様に無機質に整った顔立ちの美女で、真ん中分けおでこ全開な黒髪は顔の両側でふわっと広がる強めのパーマがかかっており、どことなくスフィンクスを思わせた。
羽織っただけで前のボタンを閉めていない白衣、大きくはだけて胸元が露わになっている紫色のシャツ、やたら短い黒のタイトスカートに黒のガーターストッキングと、お前はエロゲに出て来る保健室の先生かと突っ込みたくなる様な露出過多の格好をしているが、履いている靴だけはお色気と無縁な機能性重視の白スニーカーな辺り、医者としての最低限の節度は持ち合せているらしい。
「三人共、同じ状況下での同じ症状なんで、まとめて一遍に説明させてもらえませんか、ええと、ヘディ先生?」
サイズ的にやや控えめな女医の胸の辺りをガン見しながら提案するエイジン先生。
そんなエイジン先生を、綺麗だが無機質な感じがする目で見上げ、
「そんなに私の胸が気になる? もっと見たい? いくら出す?」
そう言って、シャツのボタンに手をかけるエロ保健医、もといヘディ先生。
「いや、あんたの胸じゃなくて、白衣の胸ポケットに付けてる名札を読んでたんですが。邪魔なんで、手をどけてもらえますか?」
エロ先生の大胆かつがめつい誘惑をスルーするエイジン先生。
「もっと近くで見てもいいのよ。いくら出す?」
「あ、もう読めたから、いいです。いずれにせよビタ一文出すつもりはないです。ヘディ・ラッシャー先生」
「ちっ」
金が取れないと見るや、舌打ちするヘディ先生。
「リング家は給料がいいと聞いてたんだけどな。そんなに金に困ってるのか?」
エイジン先生の無遠慮な質問に対し、
「別れた夫から莫大な慰謝料請求されてんのよ」
急に生々しい個人情報を暴露するヘディ先生。
「あー、それでリング家に逃げて来たのか」
「違うわ。逃げる程の事じゃないし。取りたても緩いし。私は森の外の大学病院からここへ週三で出張してるだけ」
「名札にその大学病院の名前も書いてあるな。字が小さいんで読むのに手間取った」
「私みたいな出張医は他にもいるわよ。むしろ、リング家専属の医師の方が少ない位ね」
「人手不足か、それとも経費削減か。もしくは、外部から腕利きの助っ人を定期的に借りる方がいいのか」
「事情は色々ね。確かにリング家から破格の給料を提示されて、専属にならないかと誘われた事もあったけど」
そこで言葉を切って、大きなモーションで足を組み、
「この薄暗い森の中で一生過ごす気にはなれなかったから、パスしたわ」
派手にパンチラをかましつつ、エイジン先生の様子を伺うヘディ先生。
「なるほど。それはそうと、金払うつもりはまったくないんで、そういうのは結構ですから」
先手を打って非課金を宣言するエイジン先生。
そんな二人の金の亡者の間抜けなやりとりを、後方から黙って見ていることしかできないヤンキー三人娘とアラン君。




