▼521▲ 読むと「自分は病気かも」という不安に襲われる分厚い家庭用医学百科
普段は目を見れば誰が誰だか一発で分かるギョロ目のベティ、ジト目のタルラ、ギロ目のジーンことヤンキー三人娘も、悪霊の妄想に怯えきっているせいか、今は三人共似た様な涙目になっており、少し見分けづらくなっている。
そんな個性を失った三人娘に対し、
「何度も言いますが、悪霊なんていません。君達が何度も金縛りにあうのは、君達自身の心か体に問題があるからです。という訳で、今日はブランドン君のカウンセリングの前に、君達を病院で診てもらう事にします」
ペットを騙して獣医に連れて行こうとする飼い主の様に、妙に優しい口調になって語りかけるエイジン先生。
「どこも悪くねえのに、病院なんか行かねーぞ!」
「それより、悪霊を何とかしろよ!」
「もっと強力な魔除けグッズとかねえのか!」
病院と聞いて一斉に拒否反応を起こし、元のギョロ目、ジト目、ギロ目に戻るペット達。
「見事なまでに霊感商法のカモだな、あんたら。魔除けグッズは後で出してやるから、とにかく今は病院行っとけ。例えばこんな事例があってな――」
そこで、脳出血が原因で言動が日に日におかしくなり、最終的には家から外に出られなくなってしまった青年の話をして、
「――結局、早い診療が彼の命を救った訳だが、もう少し放置してたら、家の中で倒れたまま、誰にも助けを求められずに死んでただろうな。脳の疾患は怖いんだ」
グズるヤンキー三人娘を一気に震えあがらせ、病院に行く事を承諾させるエイジン先生。
アラン君も交えて付き添いという形でヤンキー三人娘に同行し、旅館から胴長リムジンに乗って約十分の距離にあるリング家の私設病院までやって来ると、
「へえ、結構新しい病院だな。裁判所みたいにレンガ造りの古い建物かと思ってた」
鬱蒼とした森の一画を切り拓いて建てられた白いコンクリート造りの真新しい病院を見上げ、そんな感想を述べた。
「三年前に新しく建てたばかりだって話だ」
「古い病院は、もうちょっと先にある」
「そっちも二年位前まで現役だったんだが、今は使われてない」
旅館を出発する直前に、いつもの禁酒法時代のギャングスタイルから、黒ジャージとサンダルという、ちょっと近所へ買い物に出かけるヤンキースタイルに着替えさせられたベティ、タルラ、ジーンがかったるそうに説明する。
「つまりそっちは廃病院か。廃病院と言えば心霊スポットだよな!」
「やめろ!」
「ざけんな!」
「ぜってえ行かねえからな!」
何かを察し、必死に抗議するヤンキー三人娘。
抗議をスルーして、大きな自動ドアのある正面玄関から人気のない待ち合いロビーに入り、特に待たされる事もなく、受付カウンターの若い女事務員に、
「すいません、この三人が昨晩から今朝にかけて何度も金縛りにあったんですけど、こいつらの脳を診てもらえませんか?」
ざっくりと目的を説明するエイジン先生。
「金縛り、ですか。でしたら、まず心療内科で診て頂いた方がいいと思いますが」
冷静に判断する有能な事務員。
「いや、実はその前に、こいつらが原因不明の発作を起こして突然暴れ出して、やむをえず頭を床に押さえつけて落ち着かせたという経緯があるんで、最初は脳外科でお願いします」
「ちょっと待て、誰が発作だ!」
「しれっと話を捏造するんじゃねえ!」
「何が『原因不明』だ! 原因はお前じゃねえか!」
エイジン先生の説明にすかさず突っ込むヤンキー三人娘。
「分かりました、脳外科ですね。診療を受ける方のお名前と簡単な病状の説明をこちらの用紙に書いてください」
それをスルーして冷静に受付作業を進める有能な事務員。




