▼519▲ 車を運転すると急に言動がチンピラになる病気
「今日もガル家から荷物が届く予定なんで、昨日みたいに俺の部屋の前に置いといてくれないか?」
ゲームに興じながら顔も上げずにアンソニーへ用件を言うエイジン先生。あまり人に物を頼む態度ではない。
「もう、その様に手配してあります。これからは二十四時間、いつでもエイジンさん宛ての荷物が届き次第、こちらへ運び込ませますので」
エイジン先生のプレイを注視したまま顔も上げずに答えるアンソニー。こちらも接客する態度とは言い難い。
そんなマナーが悪い者同士によるテーブル筐体越しの会話は続く。
「そいつは助かるが、本当に部屋の前に置いといてくれるだけでいいからな。俺は中で寝てるかもしれんし」
「分かりました。完全な置き配にする様、通達しておきます」
「その方がお互い気楽だ。少しでも余計な手間は省いた方がいいだろ」
「お気遣い、感謝します。ですが、何か必要な事がありましたら、遠慮なさらず何なりとお申し付けください」
「じゃ、早速お言葉に甘えて。リング家の病院を利用させてもらっても構わないか?」
「もちろん構いませんが。エイジンさん、どこか具合を悪くされましたか?」
「いや、俺じゃなくて、俺達の世話役の、ベティ、タルラ、ジーンの三バカだ。あいつらの頭に異常がないかどうか調べたい」
「ああ、彼女達がまた何か失礼な事をやらかしたのですね。申し訳ありません」
「いや、あいつらが失礼なのはもう手遅れだから気にしてない。そうじゃなくて、実は昨日、あいつら三人仲良く同時に金縛りにあったんだ。まあ、原因は精神的なものだろうが、普段が普段だから、この際脳も診てもらった方がいいかなと思って。ここの従業員は無料で診てもらえるんだろ?」
「ええ、行けばすぐに診てもらえます。特に許可は要りません。脳の検査となると、レントゲンかMRIになると思いますが、その辺は担当医と相談してください」
「分かった。とりあえず、行くだけ行ってみよう」
口ではヤンキー三人娘の身体を気遣いつつ、ゲーム内ではモンスターを容赦なく氷のブロックで虐殺し続けるエイジン先生。
「おや、この面は特殊ブロックに全然手を付けていませんね。やはり、私と話していると集中が乱れますか?」
ゲーム画面から顔を上げて尋ねるアンソニー。
「いや、この面はブロックの配置を見て最初からあきらめてた。ボーナス狙いで無理すると、あっさり死ぬパターンだ。こういう時は欲張らず、地道にモンスターを潰して行った方がいい」
ゲーム画面から顔を上げずに答えるエイジン先生。
「なるほど。勝てる状況でなければ決して無理はしない、と」
「ただし、ボーナスを狙えそうな状況が来たら、多少無理してでも取りに行くぜ!」
宣言通り、次の面では難なく三つの特殊ブロックを一直線に並べ、ボーナスポイントを獲得するエイジン先生。
「プレイスタイルには、プレイヤーの性格が顕著に表れるものですね」
満足げに微笑むアンソニー。
「車を運転する時、ドライバーの本性が出るみたいにな」
顔を上げてニヤリと笑うエイジン先生。




