▼518▲ 鬼畜でドSな穴掘りと出来るだけ楽して大金を稼ごうとするペンギン
ずっとお留守番させられているグレタとイングリッドに文句を言いたいだけ言わせておいて、その間ずっとノートパソコンで動画の編集作業をしながら適当に聞き流し、
「じゃあ、またこっちに送って欲しい物のリストを送るから、よろしく頼む」
最後に自分の要求をきっちり伝えてから電話を切るゴーイングマイウェイなエイジン先生。
その後も編集作業を続行し、朝の四時頃に動画を完成させ、
「アンソニーのオッサンが来るまで、まだ時間があるな」
大きく伸びをして立ち上がり、浴衣姿のまま地下の遊技場へ来てみると、
「おはようございます、エイジンさん」
年代物のテーブル筐体が並んでいる薄暗い片隅でゲームに興じる制服姿のアンソニーがさも当然の様にいた。
「ここまで先回りされると、もうホラーだな」
半ば呆れつつ、筐体を挟んでアンソニーの対面に座るエイジン先生。
テーブルに埋め込まれたゲーム画面には、アリの巣のごとく縦横にトンネルが掘られまくった地下空間で、自機と思しき白装束の穴掘りが、ワニの様な怪獣を追いかけている場面が映し出されている。
「それはこちらの台詞ですよ。ちょっと待ってください、この最後の一匹を倒したら、もうやめますから」
「いいよ、俺の事は気にせず続けてくれ。しかし、こりゃまた随分古いゲームだな」
「八十年代初頭、アーケードゲーム黎明期の名作です。地下を掘り進みつつ、敵を空気ポンプで破裂させて倒すという発想が、当時とても斬新でした」
必死に逃げる怪獣へ穴掘りの武器であるポンプの先を突き刺すアンソニー。そのまま空気を送り込んで怪獣を膨らませ、破裂する一歩手前でポンプを止め、程よくしぼんだ所へまたポンプで膨らませる、という鬼畜ドSループを繰り返す。
「『畜生、イッソ、ヒトオモイニ殺セ!』」
なぶり殺しにされる怪獣の心境を裏声で代弁するエイジン先生。
「こういう事が出来るのも、このゲームの上手い所ですね。子供は残酷な一面を持っていますから」
ニッコリ笑うアンソニー。
「大人でも持ったままの奴いるぞ。誰とは言わんが」
「はは、ではそろそろ楽にしてあげましょう」
そう言って、いたぶり続けた怪獣を容赦なく破裂させてから、
「ロビーに移動しますか?」
例の見開いた目でエイジン先生を見据え、提案するアンソニー。
「いや、ここで話そうぜ。何か俺もゲームやりたくなってきた」
「なら、最初から仕切り直しましょうか。残機をわざと敵に突っ込ませるのでちょっと待ってください」
「ああ、そんな事しなくていいよ。別のゲームにする」
そう言って、隣のテーブル筐体に移動するエイジン先生。そこには氷のブロックを並べて作った迷路を駆け回るペンギンと、敵らしきモンスターがウロチョロしているデモ画面が映っている。
「ほぼ同時期に出たゲームですね。そちらも傑作です」
プレイ中のゲームを放置してアンソニーも同じ筐体に移動し、ゲーム用のメダルを何枚か胸ポケットから取り出して、
「どうぞ、お使いください」
ゲーム画面の横に積み上げた。
「ありがとよ。氷のブロックを突き飛ばして敵を潰す、って戦い方が面白いよな、あんたもやるかい?」
そこからメダルを一枚取って筐体に投入するエイジン先生。
「いえ、一人用でどうぞ。私は見学させてもらいます」
「んじゃ、お言葉に甘えて、1プレイヤーオンリー、っと」
軽快な音楽と共に氷の迷路がゲーム画面全体に形成され、その中央に自機のペンギンが現れる。続いていくつかの氷のブロックの中からモンスターが孵化し、迷路の中をウロチョロし始めた。
「これ、敵を一匹ずつ倒して行くより、特殊ブロックを集めた方が効率がいいんだよな」
その言葉通り、群がるモンスターを巧みに回避しつつブロックを突き飛ばしまくり、最小限の操作で他と模様が違う三個のブロックをあっと言う間に一直線に並べるエイジン先生。
これによって莫大なボーナスポイントが支給され、全てのモンスターが一斉にマヒ状態となる。
「『コツコツ働くより、一発当てて大儲け』、子供達に夢と希望を与える実に素晴らしいゲームだよな!」
マヒして動けなくなったモンスターを次々と氷のブロックで潰しながら、ロクな事を言わないエイジン先生。
「ある意味、終身雇用制度が崩壊しつつあるエイジンさんの世界の現状ですね」
そんなエイジン先生の軽口に付き合うアンソニー。