▼517▲ 都合のいい女と都合のいい時だけ被害者ぶる女
ホラゲービビリ実況二日目。相変わらず不気味な洋館の中をうろつくゾンビに加え、巨大グモ、大蛇、二足歩行する爬虫類っぽい何かといった女の子が嫌がる要素てんこ盛りのクリーチャーが、狙い澄ました様なタイミングで襲って来る度に、
「もうやだ、このゲーム!」
「一体どんなエサやったらこんな巨大化するんだよ!」
「いっそ館ごと全部燃やしちまえ!」
などと泣き言をわめいてコントローラーを投げ出すヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーン。
「いいからアイテムを探して所定の場所にはめる作業に戻るんだ」
微笑みつつコントローラーを拾い、投げた本人の手にそっと戻してあげる優しいエイジン先生。鬼とも言う。
そんな具合にこの日もヤンキー三人娘をへとへとに疲れきるまでがっつりプレイさせ、夜遅くになってからようやく解放してやると、自分も部屋に戻って実況動画の編集作業に取り掛かり、
「頼んだ荷物は昼過ぎにはもうこっちに届いたぜ。意外に早かった」
その片手間にガル家でお留守番中のポンコツ主従へ定期連絡を入れるエイジン先生。
「感謝しなさいよ、エイジン! 特別にガル家の業務用ヘリで運ばせたんだから!」
「リング家に問い合わせた所、森の中のヘリポートまで直接空輸する許可を頂きました。これはかなり破格の待遇です。ずいぶんと信用されている様ですね、エイジン先生」
役に立てて嬉しそうなグレタと、冷静に報告するイングリッドの声が、テーブルに置いた携帯から聞こえて来る。
「ああ、二人共、ありがとうよ。おかげで色々捗った。そっちはどうだ? 変わった事はないか?」
「特にないわ」
「こちらは何も問題ありません。しいて言えば、二人で荷物の中に潜んでエイジン先生をびっくりさせようかなどと考えたりしていましたが」
「考えるな。引き続きそっちで大人しく待機しててくれ。いつ、何が必要になるか分からないからな」
「何か必要なものがあったら、いつでも連絡して! すぐに用意してそっちに送るから!」
「つまり、私達には『ずっと都合のいい女でいて欲しい』という事ですね、エイジン先生」
「ああ、頼んだぞ」
「ちょっと! 今の『頼んだぞ』はどっち? 必要なものをすぐに送る事? それとも『都合のいい女』でいる事?」
「おそらく後者です、お嬢様。この男と来たら、基本的に女を騙して利用する事しか考えてませんし」
「人聞きの悪い事を言うな。俺がいつあんたらを騙して利用した?」
「こっちの世界に召喚してすぐよ!」
「私達二人の純情可憐な乙女心に同時に付け込もうとした件は一生忘れませんが?」
「ああ、あったね、そんな事も」
「エイジン!」
「エイジン先生!」
「冗談だ。ってか、あんたらは『都合のいい女』っていうより、『都合のいい時だけ被害者ぶる女』だろ」
「エイジン!!」
「エイジン先生!!」
「冗談だ。そう怒るな」
「今のは流石に怒るわよ!」
「一体、何様のつもりですか!」
「一応、『お師匠様』だけどな。あんたらすっかり忘れてるかも知れんが」
ギャーギャーわめくポンコツ主従を相手に、その晩もダラダラと長電話に付き合わされるエイジン先生。




