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▼516▲ マッチ売りの少女が最期の瞬間に見た幸せ

 修学旅行の朝のバカ中学生よろしく、額に「悪」と落書きされた間抜けな顔のヤンキー三人娘に対し、


「よし、これでもう悪霊は去ったから安心しろ」


 全く悪びれる事なく、親切を装って嘘八百を吹き込み、


「ともかく俺達を旅館まで送ってくれ。今日の夕飯も外人に大人気の日本料理だぞ!」


 ダメ押しに食い物で釣って、自分に都合よく操ろうとするいつものエイジン先生。


「スシか?」

「テンプラか?」

「スキヤキか?」


 日本をよく知らないステレオタイプな外人っぽく食いつく腹ペコヤンキー三人娘。


「ノー、ノー、全部チガイマース。旅館ニツイテカラノ、オタノシミデース!」


 外人に話しかけられた時のステレオタイプな日本人っぽくはぐらかすエイジン先生。


 もうこうなったら美味い物だけが救いだ、とばかりに旅館に戻ったヤンキー三人娘は、特攻服のまま食堂に直行、エイジン先生とアラン君と向かい合う形で座敷のテーブルにどっかと腰を据え、「早くメシ持って来い!」と厨房に向かって催促しまくった。


 そのガラの悪さといい、カラフルな特攻服といい、額のこれ見よがしな「悪」といい、古いコントに出て来るヤンキーそのまんまな彼女達の言動を目の当たりにしても、笑い崩れる事なく普段通りに料理を運んで来た食堂スタッフはプロ中のプロと言えよう。


 運ばれて来たのは、平べったい特急列車の形をした皿の上に、チキンライス、ナポリタンスパゲティー、目玉焼き付きハンバーグ、タコさんウィンナー、ポテトフライ、エビフライ、グラタン、サラダ、プリンを、一緒に盛った料理で、チキンライスの上には小さな日の丸の旗がちょこんと立ててある。


「日本料理……なのか、これ?」

「何かイメージと違う」

「確かに美味そうだけどよ」


 肩透かしを食らって、ちょっと戸惑うヤンキー三人娘。


「間違いなく日本発祥の料理だぜ。俺より上の世代にとっちゃ、紛れもなくスペシャルな御馳走だ。確かに一つ一つは洋食なんだが、それらを少しずつ盛り合せて、一皿でたくさんの料理が楽しめる様になっている。これこそが、懐石料理にも通じる『和の心』だ」


 間違ってはいないが微妙に胡散臭い解説で煙に巻き、料理を食べ出したヤンキー三人娘が徐々に幸せそうな表情に変わって行く様子を携帯で撮影しながら、


「今日の夕飯は『お子様ランチ』といって、小さい子供専用の料理だ。いい年した大人が食ってると、ちょっと違和感がある代物でな。ましてや特攻服着たヤンキーが美味そうに食ってれば、もうそれだけでかなり笑える絵面になる」


 隣に座るアラン君にこっそりネタバレするエイジン先生。


「ああ、やっぱりイタズラを仕込んでたんですね……でも、美味しいじゃないですか、これ。普通に大人に出してもおかしくないですよ」


「アラン君同様、その手のこだわりがない外人さんには結構人気がある。が、日本に来てレストランで注文しても、大抵の場合、年齢制限で断られるけどな。そういう意味じゃ、あいつらはラッキーだよ」


 孫を見るおじいさんの様な優しい笑顔で、ヤンキー三人娘の幸せそうな食べっぷりを撮影するエイジン先生。


 何はともあれ美味しい料理を平らげて心を癒され、心霊ドッキリに引っ掛かった事も、その後で金縛りにあった事も、全部忘れて和むヤンキー三人娘を、


「じゃ、元気が出た所で、ホラゲー実況二日目行こうか」


 大量のゾンビが襲って来るスプラッタな世界に容赦なく連れて行くエイジン先生。


 例えるなら、最期に好きな物を食べさせてから絞首台に死刑囚を送る刑務官。

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