▼51▲ まとまった休暇と解放感あふれる旅
「そう心配するなって。グレタ嬢の怒りは、全部俺に向けられる様にしておいてやる。どうせ俺は元の世界に帰っちまえば、それっきり縁がなくなるんだし」
そんな当てになるのかならないのか分からない約束を不安げなアランにした後で、その日の作戦会議を切り上げたエイジンが小屋に戻って来た。
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
もはや小屋の一部と化したイングリッドが、いつもの様に出迎える。
「ただいま。考えてみれば、もう半月もこの小屋に一緒に住んでいるんだな」
「私に情が移ってしまいましたか?」
「いや、もう半月したら何の未練もなく元の世界に帰るよ。それまでの辛抱だな、と思って」
「メイドたるもの辛抱が肝心ですから、その位平気です」
「いや、あんたじゃなくて俺が」
「愉快なジョークですね。それはさておき、すぐに夕食に致します」
エイジンが反論する隙を与えずに、ちゃっちゃとキッチンに誘導するイングリッド。
鉄板皿に載せられてまだジュウジュウ音を立てている焼き立ての分厚いビーフステーキと、新鮮なサラダを、イングリッドと差し向かいで平らげた後、
「あんたは一ヶ月も休みなしでいいのか? 週に二日位休みをもらえないのか?」
エイジンが言外に、「たまには一人にさせろ」、との含みを持たせて言う。
「エイジン先生のお世話を怠る訳にはいきませんから。お休みは後でまとめて頂きます」
イングリッドが言外に、「だが断る」、との含みを持たせて答える。
「そうか。じゃあ、結構長いバカンスになるんだな、ちょっとした旅行が出来そうだ」
「まだ何をするかは決めていません。いつから休めるかのメドも付きませんし」
「グレタお嬢様次第だな。一応、俺が帰るのは予定では十六日後だ。お嬢様がこのまま延長を望まなければの話だが」
「エイジン先生は、グレタお嬢様に気に入られている様ですから、延長の可能性もあり得ますね」
「今日、延長を申し出たらあっさり断られたぞ」
「ギリギリになって延長される可能性もあります。油断は出来ません」
「そうだな。旅行の計画を立てにくくさせて気の毒だとは思うが、恨むならグレタお嬢様を恨んでくれ」
「ここは一つ、エイジン先生が私に古武術の奥義を伝授して、エイジン先生が元の世界に帰った後で、私がグレタお嬢様にそれを伝授するという形にしてはどうでしょうか」
「だったら、グレタ嬢に先に伝授した方が早いじゃねえか」
「気付かれましたか」
「気付くわ。何度も言うが、俺はあんたに何も教える気はないよ、潔く諦めて解放感あふれるバカンスの旅の事でも考えてな」
そう言われ、しばらくの間、イングリッドは黙って不満そうにエイジン先生を見つめていたが、
「とりあえず、今夜のバカンスはエイジン先生のベッドの中で過ごす事に決めました」
「やめろ」
「解放感あふれる全裸で」
「冗談でもやめろ」
結局その晩、冗談を実行してエイジンに嫌がらせをするイングリッドだった。




