▼508▲ 心霊スポットに向かって皆でバカヤローと叫ぶ青春ドラマ
一通り写真を撮りまくった後、エイジン先生は、
「どうよ、その服を着てると、何かこう度胸が体中に漲って来るだろう?」
それぞれ白、青、赤の特攻服を着せられたベティ、タルラ、ジーンに尋ねたが、
「来ねーよ」
「何かバカみてーだし」
「早く脱ぎてーわ」
かったるそうに返答するこのヤンキー三人娘は一ミリたりとも同意していない様子である。
「しょうがないな。じゃあ、そのままの格好で心霊スポットに行ってみようか」
とんでもない事をしれっと提案するエイジン先生に対し、
「人の話を聞け!」
「何が『じゃあ』なんだよ!」
「こんなの着たって度胸がつくか、ボケ!」
かったるそうな態度をかなぐり捨てて必死に抗議するも、
「まあ、騙されたと思って俺の言う通りにしてみろ。これも一種の心理療法だから」
結局言いくるめられ、リング家の屋敷から少し離れた寂しい場所にある古井戸まで、胴長リムジンで移動させられてしまうヤンキー三人娘。
「うんうん、やっぱり『リング』と言えば『井戸』だよな」
腰位の高さまである不気味な古井戸の縁をペチペチと叩きながら、満足げに中を覗きこむエイジン先生。
「ここも心霊スポットだったなんて、全然知りませんでした」
巻き込まれて一緒に連れて来られたアラン君も、そう言って恐る恐る中を覗きこむ。
「その手のサイトの解説によると、結構な数の人間がここに身を投げたり、殺害された後に放り込まれたりしたらしいぜ。井戸の底には今も夥しい数の白骨が沈んでるのかもな!」
「ひっ!」
エイジン先生の言葉を聞いて、思わず首を引っ込めるアラン君。
そんな二人のやりとりを、十メートル程離れてビクビクしながら眺めていたヤンキー三人娘に対し、
「おーい、そんな所に突っ立ってないで、君達もこっちに来なよー!」
海水浴に女の子を誘う爽やかな好青年の様に楽しげに手招きするエイジン先生。
「遠慮しとくわ!」
「そこに近付くだけでヤバいって話だぞ!」
「悪霊に取り憑かれても知らねーからな!」
事前に携帯でその手のサイトを確認していたので、絶対に近寄ろうとしないヤンキー三人娘。
「大丈夫、先日テイタムお嬢ちゃんがここに来て井戸の写真撮ってたけど、その後全然異常なかったから! まさかあんたら、九歳の女の子より度胸がないなんて言わないよな?」
「んだと、コラ!」
「ざけんなよ、てめえ!」
「行きゃいいんだろ、行きゃ!」
しかし、安い挑発に乗ってのっしのっしと井戸に向かってしまうヤンキー三人娘。
「そうそう。怖い怖いと思うから怖いのであって、普通に見てみりゃ何て事もないタダの古井戸さ。そもそも深くて暗いから、井戸の底なんか見えないだろ? タダの暗闇だ」
そう言って井戸の中を指差すエイジン先生につられ、
「確かに真っ暗で何にも見えねえわ」
「こんなの怖くも何ともねえよ」
「おどかしやがって。何が心霊スポットだ」
井戸の縁に両手を掛け、首を伸ばして底を覗き込むヤンキー三人娘。
「そもそも悪霊なんてこの世に存在しないんだ。井戸の底に向かってタンカの一つも切ってやれ!」
「オラァッ! 出て来い、死にぞこないの悪霊共!」
「取り憑けるモンなら、取り憑いてみろや!」
「返り討ちにして、あの世に送り返してやるぜ!」
エイジン先生に煽動され、しばし調子に乗って井戸の底に悪態をつきまくるヤンキー三人娘。
三人が一通り悪態をついた後、
「どうだ、ちょっとは度胸がついたろう?」
生徒に海に向かってバカヤローと叫ばせる青春学園ドラマの熱血教師の様な笑顔でのたまうエイジン先生。
「ま、本気出しゃ、こんなもんさ」
「アタシらをなめてんじゃねーぞ」
「もうビビらそうとしたって無駄だからな」
すっかり表情から恐怖が消えたヤンキー三人娘。
「今のであんたらは確実に悪霊に取り憑かれるだろうけれど、大丈夫、度胸で何とかなるさ!」
「え」
「え」
「え」
「これからしばらくの間、見えるはずのないモノが見えたり、聞こえるはずのない声が聞こえたり、金縛りにあったりするかもしれないが、まあ頑張れ」
「ちょ、ちょっと待て!」
「話が違うぞ!」
「悪霊なんてこの世に存在しないんじゃなかったのかよ!」
「霊を信じる信じないに拘わらず、心霊スポットに来たら敬虔な気持ちで大人しく振る舞うのは基本中の基本だからな。間違っても霊に向かって悪態なんかつかない様に」
「やれって言ったのはてめえだろ!」
「どうしてくれんだよ!」
「何とかしやがれ、この野郎!」
悪霊以前にすっかり恐怖に取り憑かれてしまい、涙目でパニックになるヤンキー三人娘に対し、
「ああ、わかった、わかった。ブランドン君のカウンセリングに行く前に、一旦旅館に戻ろうぜ。また魔除けグッズを追加してやるからさ!」
また百パーセントインチキな品物を提供しようと企んでいるのが丸分かりなエイジン先生。