▼507▲ 全て無かった事にしたいヤンキー時代のこっ恥ずかしい写真
昼食を終えて作務衣に着替えてから、ベティ、タルラ、ジーンのヤンキー三人娘を携帯で旅館のロビーに呼び出し、
「皆さん、昨夜はぐっすり眠れましたか?」
実に爽やかな笑顔で尋ねるエイジン先生。
「あんな目に遭わされてぐっすり眠れるか!」
「夢ン中にまでゾンビが出てきたわ!」
「てめえ、分かってて言ってるだろ!」
一目でそれと分かる寝不足気味のげっそりした顔で言い返すヤンキー三人娘。
これに対し大げさに首を振ってから、やれやれといった態で、
「いいですか、ゾンビなんていません。ゾンビなんて嘘です。寝ぼけた人が悪霊と見間違えただけです」
小さい子供に教え諭す様な口調でボケ倒すエイジン先生。
「どっちにしろ怖えよ!」
「またドッキリで脅す気か!」
「もうそういうのホントにやめろ!」
「君達怖がり過ぎ。いくら天性のビビリ芸人とはいえ、どんな怖い状況でもきっちりリアクションを取れるだけの度胸がなければプロにはなれませんよ?」
「誰が天性のビビリ芸人だ!」
「アタシらを何だと思ってやがる!」
「怖えモンは怖えんだよ!」
「今回はそんな君達の為に、着るだけで度胸がつく素敵な衣装を用意しました!」
そう言って、足元に置いた三つの紙袋を指し示すエイジン先生。
「素敵な衣装だと?」
「アタシらに着ろってのか?」
「エロいやつじゃねえだろうな?」
「安心してください。視聴者は君達にお色気なんかこれっぽっちも求めませんから」
「んだと、コラ!」
「失礼な奴だな!」
「こちとら、脱いだらすげえんだぞ!」
「お笑いにおいて、お色気は舞台装置としては有効ですが、当の芸人にとっては逆効果です。女のお笑い芸人の基本は『いかにお色気を消すか』にあると言ってもいい位です」
「だから、お笑いなんか目指してねえよ!」
「リング家の花嫁候補だっつってんだろ!」
「アタシらに何をさせたいんだ、てめえは!」
「分かり易い例を挙げましょう。お色気要員の美女を用意して、これに対し芸人が度の過ぎた変態的な行為に及ぶというベタなお笑いがありますね。ここで視聴者が笑うのはあくまでも芸人の変態行為であって、美女の方ではありません。お色気はあくまでも舞台装置であって、それ自体が笑いを取るものではないのです」
「知らねーよ!」
「何だかんだ言って、アタシらにエロい事をするつもりじゃねーだろな!」
「アラン君にならエロい事されてもいいけど、お前がやったらブチ殺す!」
「あんたらにお色気は求めてないと言ってるだろ。とにかく従業員用の更衣室に行ってこれに着替えて来い。ヴィヴィアン様の許可は取ってあるから」
当主の名前を持ち出されては逆らう訳にも行かず、エイジン先生から紙袋を受け取り、渋々更衣室に向かうヤンキー三人娘。
約十分後、彼女達は特攻服に身を包んだ文字通りのヤンキーになってロビーに戻って来た。
「なんなんだよ、コレは!」
「こんなんで外出たら、いい笑いモンだろ!」
「お色気とは違う意味で恥ずかしいわ!」
ベティは白、タルラは青、ジーンは赤とそれぞれ異なる色の特攻服で、羽織っている丈の長い上着の背中にはそれぞれ、
『賭那離能登吐露』
『苦痢異魅威摩味』
『迂痴野弾死利魔戦禍』
と、昭和のヤンキーが好きそうな意味不明な漢字が書かれている。
「嫌がってる割には滅茶苦茶似合ってるぞ。上着の下は胸にサラシを巻いただけの方が本格的なんだが、不必要なお色気を潰す為にヘソまでしっかり隠れる黒のチューブトップにしといてやった。ありがたく思え」
「ありがたくもなんともねえよ!」
「色気を潰すな! むしろ出せ!」
「そもそもこんなマヌケな衣装で度胸がつくか!」
「とりあえず記念写真撮るから、そこで車座になってしゃがめ。しゃがんだら、不機嫌そうにこっちを見上げて睨みつけろ。そうそう、そんな感じで」
指示されるまでもなく既に不機嫌オーラ全開で睨みつけているヤンキー三人娘を、楽しそうに携帯で撮りまくるエイジン先生。
「よし、次は全員木刀持ってみようか!」
ディティールにこだわり始めるエイジン先生の要求に抗う術もなく、さらに恥ずかしい写真を撮られまくるヤンキー三人娘。




