▼505▲ 宮殿のバルコニーで王子様がお姫様へ愛をささやく場面に突入する機動隊
「亡き夫を一途に想い続ける女やもめと、亡き妻を一途に想い続ける男やもめは、傍から見るとすぐにくっつきそうですが、その実、どんなに近付けてもくっつきません。別々のパズルのピースの様な物です」
自分の雇い主と上司に当たる当主ヴィヴィアンと執事グレゴリーが結婚する可能性をジグソーパズルに例えて分かり易く解説するアンソニー。
「無理にくっつけようとするとピースが壊れるな。そもそも恋愛至上主義者と正義の弁護士じゃ、完成絵が少女漫画と社会派劇画位違うだろうし」
妙な納得の仕方をするエイジン先生。
「中々カオスなコラージュが完成しそうですね」
「宮殿のバルコニーで王子様がお姫様に愛をささやいている所へ突然機動隊が乱入したりしてな。それはともかく、そもそもグレゴリーは執事に向いてない気がする」
「誠実で忠実で働き者で清廉潔白な彼がですか?」
「どっちかっていうと警備員向きだ。むしろ、警備員のあんたの方が執事っぽい」
「自分の知的好奇心を満たす為だけに人を殺しかけたこの私が? 何故そう思うのです?」
「いや、海外ドラマとかに出て来る執事のイメージって、生真面目でいつも気を張ってるタイプより、心にゆとりがあってどこか品があるタイプじゃん? その点、あんたはそういう育ちの良さが自然に滲み出てるから。実は結構いい家柄の出なんじゃないか?」
割といい加減な根拠で人様の個人情報に踏み込むエイジン先生。
「確かに、一応そこそこの名家の出身です。とっくに没落して、今や生き残りは私一人しかいませんが」
「やっぱりな。それで銀行強盗をボコった件も合点が行く」
「と、言われますと?」
「知的好奇心を満たす為だけだったら、そこらにいる一般市民をボコりゃいいのに、あんたはそれをしていない。育ちの良さから来る『誇り』を持っていたからだ」
「『誇り』を持っていたのなら、そもそも犯罪をしないのでは?」
愉快そうに尋ねるアンソニー。
「普通はそう。けど、あんたの『誇り』は社会に野放しになっている無礼者を見過ごす事が出来なかった」
「この私が正義のヒーローだとでも?」
ますます愉快そうに尋ねるアンソニー。
「そこまでは言ってない。ヒーローはヒーローでもダークヒーローの方だ」
このエイジン先生の失礼な言葉に対し、気にする事もなく軽く笑った後、
「実に面白い考察です。エイジンさんについて、ますます興味が湧きました」
大いに知的好奇心をそそられた様子のアンソニー。
「でも、実験台にされるのだけは勘弁な」
実験と称してぶん殴られる前に釘を刺しておくエイジン先生。