▼504▲ 雇用のミスマッチと婚活のミスマッチ
行き場の無い逃亡犯という足元を見られ、奴隷の様にこき使われていたのかと思いきや、
「タダ働きとは言っても、十分快適な生活が出来るレベルの衣食住は提供されますし、労働時間も適切でちゃんと休暇もあります。リング家の私設病院で定期的に健康診断も受けられ、万一ケガや病気になっても無料で治療してもらえます」
意外にも手厚い福利厚生を享受していたアンソニー。
「何その真っ白なホワイト企業」
少し呆れ顔で言うエイジン先生。
「エイジンさんも、ここで働きませんか? リング家の森は慢性的に人手不足気味なので歓迎しますよ」
冗談とも本気ともつかぬ口調で勧誘するアンソニー。
「そんなに待遇がいいのに人手不足って事は、実は給料がめちゃくちゃ安いとか?」
失礼な事を尋ねるエイジン先生。
「一般の民間企業の平均より遥かに高給です。私もタダ働きだったのは最初の一年で、その後は普通に給料をもらっています」
「リング家に立て替えてもらった分を一年で完済したのかよ。ルーキーでも結構もらえるんだな」
「もちろん、それで外の世界における私の罪が消えたりはしません。今でも森の外に出ればすぐに逮捕される身の上のままです」
「つまり、あんたはもう一生この森の中で暮らすしかない訳だ」
「この森にはそんな境遇の者が割といますよ。言わば、外の世界の犯罪者の駆け込み寺ですから」
「もしかして人手不足は人口における犯罪者率の高さが原因じゃないのか?」
「はは、それもあるかもしれませんね。誰しも犯罪者だらけのコミュニティーに近付きたくはありません」
「そこへ行くと、ヴィヴィアン様は器がデカいな。そういう訳あり者でも偏見なく受け入れて、真っ当に働かせてるんだから」
「それはリング家の伝統です。逆にそうでもしなければ、外の世界と隔絶したこの森の中で働く人を十分に集められないという事情があります」
「マグロ漁船に通じるものがあるな。じゃあ、あのグレゴリーも何か外の世界でやらかしたクチか?」
「彼は私の様な犯罪者と違って善良な市民ですよ。その誠実な人柄を買われてスカウトされたのです。若くして妻に先立たれ、幼い子供達を男手一つで養わなければならなくなり、経済的な理由でここへ来たのです」
「清く貧しい田舎弁護士の収入じゃ、子供の面倒を見てくれる家政婦を雇うこともままならない、か。って言うか、再婚してないんだ」
「彼はずっと独身ですよ。浮ついた話も全く聞きません」
「執事って言ったら、主人の側にいる時間が多いよな」
「そうですね」
「主人であるヴィヴィアン様は現在未亡人、つまりフリーだよな」
「そうですね」
「傍から見て、この二人がくっつきそうな気配は?」
下世話な質問をするエイジン先生。
「まったくありません。二人共、元より再婚の意志はなさそうですし」
「いい話だな」
「どの辺りがですか、エイジンさん?」
「二人共、安易に手近な所で間に合わせない辺りが」
下世話にも程があるエイジン先生。