▼05▲ 不名誉な検索条件
「じゃあ、執事だ。この手の漫画だと、じゃじゃ馬なお嬢様を手玉に取る、ハンサムで有能な執事が必ずいるもんだけど」
「確かに当家の執事はハンサムで有能ですが」
「何か問題でも?」
「今年六十八歳なんです」
「何でそういう所だけ妙に現実的なんだ」
エイジンは魔法使いアランと、婚約者を他の女に奪われてヒスを起こしているグレタにあてがう男の候補を模索していたが、
「当家の使用人にしても、付き合いのある名家にしても、条件を満たす若い男性は皆、『グレタだけは勘弁してください』、と狂犬のごとく恐れている始末でして」
処置なし、といった具合にアランは首を横に振る。
「小さい頃から特定の相手と婚約させておいたのは正解だったかもな。結婚まで婚約者の男を地下室にでも監禁しておかなかったのは、痛恨のミスだが」
「グレタお嬢様も割とひどい事をなさるお方ですが、あなたよりはマシに思えて来ました」
「そうなると、この作戦はダメか。さてどうしよう」
「とりあえず、話を元に戻します。そんな訳で復讐に燃えるグレタお嬢様の命令によって、三つの条件に合致する古武術マスターを検索した結果、こうしてエイジン先生が選ばれ、こちらの世界に召喚させて頂く事になったのです」
「その条件について詳しく教えてくれないか」
「『古武術マスター』、『暇を持て余している無職』、『金に困っている』、の三つです」
「何かすごく不名誉な検索に引っ掛かったんだな、俺」
「いきなり何の予告もなく、こちらの世界に召喚してしまった事はお詫びします。ですが、ここは一つ、グレタお嬢様に古武術の指導をして頂けないでしょうか。もちろんそれなりの報酬は出させて頂きます。先程お渡しした百万円の他に、一千万円でどうでしょう?」
「ぜひ、やらせてください。と、言いたい所だけど」
エイジンは腕を組んで考え込み、何か心の中で葛藤している様子。
「何か問題が?」
「俺は古武術なんて知らん」
「え?」
「無職で暇で金に困っているのは確かだけど、古武術どころか普通の武術もやった事ないんだよ」
「そんな、まさか。検索条件はしっかり設定しました」
「多分、俺が召喚される直前に雨宿りしてた場所が、古武術を謳い文句にしてる道場だったのが、間違いの元だと思う。今はその道場も潰れて空き店舗になってるんだけど」
それを聞いたアランは頭を抱えて絶望の表情になり、
「まさかの検索ミス!?」
「だろうね。そんな訳で、別の古武術マスターを召喚して、俺は元の世界に戻してくれ。一千万円は喉から手が出る程欲しいけど、教えられないものはどうしようもない」
そう言いつつ、エイジン先生はジャケットの内ポケットにしまった百万円の札束を、服の上からしっかりと握り締めた。
もう、先にもらっちゃった分は絶対返さないもんね、と言わんばかりに。