▼490▲ 昭和の少女漫画雑誌の裏の通販広告に載っていた怪しげな恋愛成就のお守り
当主命令で心霊スポットに行かざるを得なくなり、どうあがいても絶望的状況のヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーン。
「そんなに怖がるな。よし、魔除けグッズを特別に用意してやるから、ちょっと待ってろ」
旅館の中に引き返し、すぐに何やら三つの怪しげなアイテムを持って戻って来るエイジン先生。
「まずはこのありがたい魔除けのお札! ステッカーになってるから車の後ろの窓の隅に貼っておけ」
そう言ってベティに渡したのは、『ゆっくり走ろうよ 北海道』と日本語で書いてあるステッカー。この手のステッカーは昭和の車に良く貼ってあったものだが、もちろん魔除けの効果などある訳が無い。
「次にこのありがたい魔除けの神獣像! バーカウンターの上にでも置いておけ」
そう言ってタルラに渡したのは、四つ足で踏ん張って鮭を口に咥えている木彫りの熊。昭和の家庭や旅館のテレビの上によく置いてあった置き物の定番だが、もちろん魔除けの効果などある訳が無い。
「最後はこのありがたい魔除けのBGM! 大音量でガンガン鳴らすといい」
そう言ってジーンに渡したのは、昭和特撮ヒーロー物の主題歌集CD。当時の少年達の心を熱く燃やした歌の数々だが、もちろん魔除けの効果などある訳が無い。
しかし心理的に追い詰められ藁にもすがりたい気持ちで一杯なので、騙されている事に気付かず、言われるがままこの三つのアイテムを車内に持ち込むヤンキー三人娘。
「ああいう層が昭和の少女漫画雑誌の裏の通販広告に載っていた怪しげな恋愛成就のお守りを購入してたんだろうな」
それを見て満足げに微笑むエイジン先生。
「エイジン先生みたいな人がああいう層を騙してお守りを販売していたんでしょうね」
騙されているヤンキー三人娘に憐れみの目を向けるアラン君。
かくて、後ろの窓には『ゆっくり走ろうよ 北海道』のステッカーが貼られ、オシャレなバーカウンターの上には場違いな木彫りの熊が置かれ、車内には快傑やらスーパーロボットやら電人やら宇宙刑事やらのBGMがガンガン流れ、すっかり高級感が台無しになった胴長リムジンをベティが運転し、やがて一行はカウンセリング会場となる裁判所の横にある広場に到着する。
「人気の無い大きな建物って、得体の知れないモノが潜んでそうな感じで不気味だよな」
ヤンキー三人娘にさらなる恐怖を植え付けようと試みるエイジン先生。
「くだらねえ事言ってんじゃねえ!」
「さっさと行って来い!」
「アタシらはこのまま車ン中で待機してるから!」
順調に恐怖を植え付けられるヤンキー三人娘。
「うっかり裁判所の窓とか見たら、中にいる幽霊と目が合ったりして」
「しつっけえぞ!」
「だから、さっさと行って来いよ!」
「想像させるんじゃねえ!」
怒鳴りつつも、決して車の窓から外を見ようとしないヤンキー三人娘。
「幽霊が建物を抜け出して、この車の所まで来たりしてな!」
「魔除けのアイテムがあるから車の中にいりゃ安全なんだろ!」
「お前がアイテム用意したんだから責任持てよな!」
「絶対効くんだろ、このアイテムはよぉ!」
インチキアイテムの効果を信じて疑わないヤンキー三人娘。
「ああ、そのアイテムさえあれば大丈夫だ。けど、いい機会だし、やっぱりあんたらも建物の中を一緒に見学しないか?」
「断る!」
「断る!」
「断る!」
「ま、無理強いはすまい。けど、カウンセリングの時間までまだ結構あるからな。車にずっと籠るんなら、明るい内にトイレに行っておいた方がよくね?」
「このセクハラ野郎!」
「レディに向かって何て事いいやがる!」
「行くけどよ!」
内心ビクビクしながら車を降り、エイジン先生とアラン君の後について裁判所の建物に入るヤンキー三人娘。
「お、今向こうの廊下を人が通らなかったか?」
「だから、そういうのやめろ!」
などとエイジン先生におちょくられたり、怒鳴り返したりしながらトイレを済ませた三人は、アラン君にセクハラをする余裕も無く、一目散に外に停めてある胴長リムジンに戻って行った。
「とまあ、こんな具合に、アレはあいつらを車の中に封じ込める魔除けアイテムだったって訳さ!」
ドヤ顔でアラン君に解説するエイジン先生。
「一応、ご利益はあるんですね……」
息をする様に人を騙し続けるエイジン先生を見ながら力なく笑うアラン君。




