▼489▲ ニューヨークを目指してアメリカを横断しつつ参加者が罰ゲームと共に一人また一人と消えて行く旅
遅い昼食を終えたエイジン先生とアラン君が、そのまま食堂の座敷でのんびりと緑茶を啜ってくつろいでいると、携帯の着信音が鳴った。
「お、ヴィヴィアン様からメールが来た。例の爆笑ドッキリ動画を観た感想だな。どれどれ」
懐から携帯を取り出して確認し、楽しげに言うエイジン先生。
「ああ、もう完成したんですか、アレ」
呆れ半分感心半分で尋ねるアラン君。
「今朝、寝る前に向こうへ送信しておいたんだが、忙しくて今の今まで観る余裕が無かったらしい」
「リング家の当主は多忙ですからね。その貴重な時間をしょうもない動画の鑑賞で浪費させてしまうのもどうかと思いますが」
「いや、かなりお気に召した様だぜ。『面白かったから、もっとやってちょうだい!』って書いてある」
「……何と言うか、豪快な方ですね」
「これはぜひとも期待に応えなきゃな! それはさておき、ドッキリ動画を送るついでにブランドン君をカウンセリングする場所について希望を出しておいたんだが、そっちもあっさり承認してくれた」
「ドッキリ動画のついでがカウンセリングの話ですか。で、一体どこを希望したんです?」
「アラン君が見学したがってた所だよ。『魔法使いの犯罪者を扱う特別な施設』を見たい、って言ってたろ」
「え、そんな重要な場所を使わせてもらえるんですか?」
「『今は特に予定が入ってないから、好きに使っていいわ』、とさ。まだ時間的に早いけど、今すぐ行ってみないか? そうすればブランドン君が学校から帰って来るまでの間、見学し放題だぜ!」
「お気遣いありがとうございます、エイジン先生! 願ってもない話です! 行きましょう!」
「何、礼には及ばねえよ。じゃ、あいつらを召喚するか」
早速、ヤンキー三人娘ことベティ、タルラ、ジーンを携帯で呼び出し、例の胴長リムジンで迎えに来させるエイジン先生。
「なんであんな所でカウンセリングするんだよ」
「この旅館でやりゃいいじゃねえか」
「ブランドンに場所を連絡しとけばいいだけの話だろ。バイクだからすぐ来れるし」
旅館の前で車を降りた途端、ぶつくさ文句を垂れ始めるヤンキー三人娘。
「アラン君たっての希望だ。そもそも魔法使いなら興味を持ってもおかしくない場所だし、あんたらも一緒に見学しないか? 一応魔法使いの血を引いてるんだから」
「別に見学なんかしたくねえよ、あんなクソ面白くもねえ場所」
「ま、アラン君と一緒なら話は別だがな」
「お前は好きなだけ建物を見学してろよ。その間、アタシらはアラン君の体を隅々まで見学してやるから」
頭の悪そうな冗談を言って笑い合うヤンキー三人娘。
その下品な笑い声に青ざめるアラン君とは対照的に、
「心霊スポットに行きたいかー!」
握りしめた右手を天に向かって突き出しつつ陽気に呼び掛けるエイジン先生。
「行きたくねーよ!」
「誰が行くか!」
「しつけえぞ、てめえ!」
一瞬で笑いが消え、真顔になって言い返すヤンキー三人娘。
「ま、あんたらが望むと望まざるに拘わらず、これから心霊スポットに行くんだけどな!」
「勝手に決めんじゃねえ!」
「何の罰ゲームだ!」
「カウンセリングする場所に行くんじゃなかったのかよ!」
「え、知らないのか? これから行く場所って結構有名な心霊スポットだぞ?」
「ちょ、待て、マジか?」
「聞いた事ねえぞ、おい」
「ビビらそうと思って、フカシこいてんじゃねーぞ。コラ」
「俺も今朝知ったんだが、『リング家の森』、『心霊スポット』で検索してみろ。この森の中って割と心霊スポットだらけだぜ」
このエイジン先生の発言を受けて、ギョロ目のベティが自分の携帯を取り出して検索を始め、それをジト目のタルラとギロ目のジーンが心配そうに見守った。
「その中で『死刑が行われる広場』ってのがあるだろ? 正にこれから向かう場所に」
陽気にのたまうエイジン先生と対照的に、見る見る内に青ざめて行くヤンキー三人娘。
「ブランドン君のカウンセリングはその広場に隣接する裁判所の中で行う事にしたから! 誰もいないはずの建物の中で、死刑にされた者達の生前の姿を見かける事があるとかないとか」
「やめろ、バカ! やっぱりカウンセリングはここでやれ!」
「場所変更だ、変更! 絶対行かねえからな、そんなヤバい所!」
「やっていい事と悪い事があるだろ、なあ、おい!」
悲鳴に近い声を上げるヤンキー三人娘。
「えー、でもぉー、もうヴィヴィアン様から許可もらっちゃったしー、変更はムリ、みたいなー?」
昭和チックなヤンキー三人娘に対し、平成チックなギャル風の口調で返すエイジン先生。
そんなふざけたエイジン先生を見ながら、自分の為でなくこの三バカを陥れる為にカウンセリングの場所を決めた事に薄々気付いた様子のアラン君。




