▼484▲ 寝る直前になって急に創作意欲が湧くという不可解な怪奇現象
ヤンキー三人娘を完膚無きまでにおちょくり倒して旅館から追い払い、
「あいつらは帰ったから、もう大丈夫だ。アラン君は、そのままそっちの部屋で枕を高くしてぐっすり眠るといい」
二階に退避していたアラン君に、携帯で痴女撃退作戦の成功を報告するエイジン先生。
「ありがとうございます、エイジン先生。まさか本当に来るとは思いませんでした」
それを聞いて心底安堵するアラン君。
「あいつらの弱みもしっかり握ったし、これからはアラン君がシャレにならないレベルで襲われる事もないだろうよ。油断しなければ」
「……油断したら襲われるんですか」
声と心のトーンが落ちるアラン君。
「あいつらは理性より目先の欲望が勝つタイプだから、野生動物みたいに損得勘定抜きで襲って来る可能性が無いとは言えん」
「食べ物目当てに山から下りて来て、街中で人を襲って射殺されるクマみたいですね」
「言い得て妙だな。もし襲われたら『心霊スポット!』と叫べ。それであいつらが怯んだ隙に全力で逃げるんだ」
「何ですか、その『心霊スポット』って」
「詳しい事は後で説明する。ともかく今はゆっくり寝ておけ。起きるのは昼過ぎでいいぞ。どうせブランドン君が学校から帰って来るのは夕方以降だし」
「今から寝るとしても、昼過ぎに起きるのは少し寝過ぎの様な気がしますが」
ちら、と携帯の画面を確認するアラン君。時刻は現在、深夜四時を少し回った所。
「じゃ、アラン君は好きな時に起きればいい。俺は寝る前にちょっとやらなきゃならない作業があるんで寝坊する」
「何の作業です?」
「この部屋のあちこちに仕掛けておいた小型カメラの映像を編集して一本の爆笑ドッキリ動画にまとめる大切な作業さ!」
「別に今すぐやる必要の無いどうでもいい作業の様な気がするんですが」
「あいつらのボスたるヴィヴィアン様に早くこの動画を見せてやりたくてな」
「ああ、彼女達が暴走した証拠を見せて、ヴィヴィアンさんから注意してもらうんですね。二度とこんな事をしない様に」
「いや、単にドッカンドッカン笑わせようと思って。むしろ器の大きいヴィヴィアンの事だから、この位のおイタは大目に見た挙句、逆に『面白いから、もっとやってちょうだい!』とか言い出しかねんぞ」
「いや、そこは注意してもらってくださいよ!」
「あいつらに注意したって大して効果もない事は、ボスが一番良く知ってるさ。俺がおちょくってやった方がよっぽど効く。それを証明する為の動画でもある」
「……まあ、エイジン先生がそう言うのなら、好きにしてください。それでこちらの身の安全が保証されるなら、それでいいです」
「ああ、好きにさせてもらうぞ。今、俺は創作意欲が湧きまくってて一分一秒でも惜しい気持ちなんだ。じゃ、おやすみ!」
こうしてアラン君との通話を終えた後、エイジン先生はテーブルに向かい、持参したノートパソコンで爆笑ドッキリ動画の編集作業に没頭し始めた。
長い髪のヅラに白いワンピースというジャパニーズホラーな女装のままで。
むしろその姿の方が笑えなくもない。




