▼483▲ 真夜中に密室で女生徒の弱みを握って言う事を聞かせようとする男性教師
「さて、魔法使いの名家の令嬢として生まれ、その家名に相応しい優秀な魔法使いになる事を期待されるも、出来が悪くてその期待に応えられず、とうとうヤケを起こしてグレてしまった、悪役令嬢の中でも最も情けない部類に入る君達ですが」
「うるせえよ!」
「知った風な口利くんじゃねえ!」
「お前に何が分かる!」
学園ドラマの教師風の口調でガンガン煽るエイジン先生に乗せられまくるベティ、タルラ、ジーン。
「そもそも期待に応える必要なんてないんです。人それぞれ向き不向きというものがあります。たとえ優秀な魔法使いになれなくとも、自分が得意な別の分野で頑張ればいいだけの話です。そんな簡単な道理も分からず、勝手に期待して勝手に失望して、挙句、君達の事を『腐ったミカン』呼ばわりする失礼千万な奴の言う事なんか、一言も聞く価値はありません!」
「『腐ったミカン』呼ばわりしてるのはお前だろ!」
「言ってる事が矛盾してるぞ!」
「大体、そこまでひどい呼び方された事なんかねえよ!」
「いいですか、人間誰しも一つ位は取り柄があるものです。たとえ君達の様な腐ったミカンでも」
「言ってるそばから呼ぶな!」
「高貴なアタシらは、どっちかっつーと、桐箱入りの高級マスクメロンだぜ!」
「そんな高級マスクメロン食ったことねーだろ、ああ!?」
「高級マスクメロンだって腐ればただの生ゴミです。なまじ立派な桐箱に入っていた分だけ、悲惨さも倍増です」
「ったく、ああ言えばこう言う男だな!」
「いちいちあてつけがましいんだよ、オラ!」
「ロクな死に方しねーぞ、てめえ!」
「売り言葉に買い言葉と言う奴です。それはさておき、自分では気付いていないかもしれませんが、君達は魔法使いの資質は無くとも、もっと素晴らしい資質を持っているじゃありませんか。その資質を活かせばブランドン君の嫁になれなくても、十分幸せになれる事を先生が保証します」
「資質って、この美貌の事か!」
「よくわかってんじゃねーか!」
「ま、確かにその気になりゃあ、どんな男でもよりどりみどりだがな!」
「その図々しさもさることながら、それ以上に君達は『ビビリ芸人』として最高の資質を持っています。バラエティー番組に出演して、無駄にイキリまくった後、怖い目にあってキャーキャー悲鳴を上げてビビリまくる映像の一つも流せば、お茶の間はドッカンドッカン笑いの渦です」
「誰がするか!」
「何でアタシらがそんなアホな事しなくちゃならねえんだよ!」
「こちとら名家のお嬢様だぞ!」
「とりあえず深夜の心霊スポットで動画を撮って投稿サイトにアップしてみましょう! 君達ならすぐに数百万以上の再生数が稼げる事間違いなし!」
「絶対嫌だ!」
「絶対嫌だ!」
「絶対嫌だ!」
「どんなに嫌がっても、ヴィヴィアン様にお願いして当主命令を出してもらえば、君達は逆らえませんよね?」
「てめえ、鬼か!」
「やっていい事と悪い事があんだろ!」
「人の心ってモンがねえのかよ!」
「ま、先生も鬼じゃありません。心霊スポットに行きたくなければ、今後は先生の言う事をよーく聞く事です。分かりましたか?」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
「はい、快く分かってもらえた所で、今回の説教はおしまいです。今履いているその靴を脱いでこの袋に入れた後、君達が土足で踏み込んで汚した部屋と廊下を掃除してください。それが終わったら解散です」
そう言ってテーブルの下から三人分の靴袋と、ドライシートを取り付けた三本のフローリングワイパーを取り出す、やたら用意のいいエイジン先生。
「ドライシートでざっと泥を掃いとけばいいからな。素人が下手にウェットシートでゴシゴシやると畳とか板とか傷めかねん。ちゃんとした掃除はこの旅館担当の使用人に任せた方がいい」
学園ドラマごっこを終えていつもの話し方に戻るエイジン先生と、弱みを握られて渋々掃除に励むヤンキー三人娘。
「何でアタシらがこんな――」
「心霊スポット」
「ぐぬぬ」
ああ言えばこう言うエイジン先生に遮られて独り言すら最後まで言わせてもらえず、悔しそうに唸るベティ。




