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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ4△

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480/556

▼480▲ 本当にあった呪いのおもてなし

 午前二時。リング家の真っ暗な森の中を走って来た黒い大型バンが、エイジンとアランが宿泊している和風旅館から少し離れた場所に停車し、ヘッドライトを消して周囲の闇に溶け込んだ。


 前後のドアが静かに開き、中から黒いジャージに黒いスニーカーという、会場入りするアスリートの様な姿の三人の女が降り立つ。ヤンキー三人娘こと、ギョロ目のベティ、ジト目のタルラ、ギロ目のジーンである。


「部屋の灯りは点いてるか?」


 小声で尋ねるベティ。


「客室は一階も二階も全部消えてるぜ」


 同じく小声で答えるタルラ。


「んじゃ、行こうか」


 同じく小声で促す、黒いナップザックを背負ったジーン。ヤンキー三人娘はコントの泥棒の様に周囲を警戒しながら旅館の方へと歩み出した。


 建物の裏手に回って、予め鍵を開けておいた通用口から侵入し、土足のまま薄暗い板張りの廊下を抜き足差し足で進むヤンキー三人娘。靴底の柔らかいスニーカーを履いているので足音はほととんどしない。


 一階手前にあるアラン君の部屋の前まで来ると、ベティがジャージのポケットからマスターキーと思しきカードを取り出し、壁の読みとり装置にかざしてロックを解除する。


 引き戸を静かに開けて侵入するヤンキー三人娘。引き戸と客間の間には上がり框が設けられており、普通はそこでスリッパを脱いでから客間に入る様になっている。が、三人はスニーカーを脱ごうとせず、土足のまま上がり込むつもりらしい。


 背負っていたナップザックを床に置き、中からペンライトと猿轡用の布を取り出してそれぞれベティとタルラに手渡し、自分はロープを取り出して手に持つジーン。


 上がり框と客間を隔てている襖を少し開けて内部を覗き込むベティ。誰もいない事を確認してから、タルラとジーンと共に中へ侵入し、奥の寝室へ通じる襖の前で一旦立ち止まる。


 寝室の襖を少し開けて内部を覗き込むと、部屋の真ん中に布団が敷いてあり、顔は見えないが掛け布団がこんもりと盛り上がっている事から、アラン君はその中でぐっすり眠っているものと思われた。


 逸る気持ちを抑えつつ、音を立てない様に慎重に寝室に侵入し、盛り上がった布団を三方から取り囲むヤンキー三人娘。


 ベティが掛け布団に手を掛けて一気に引っ剥がし、猿轡用の布きれを持ったタルラと拘束用のロープを構えたジーンが中の人に襲い掛かる。


 が、布団の中にアラン君はいなかった。


 代わりにあったのは馬の生首。


「ひっ!」

「ひっ!」

「ひっ!」


 短い悲鳴を上げて、ぴょん、と後方に飛びのくヤンキー三人娘。


 恐る恐るベティがペンライトでその奇怪なブツをもう一度照らす。


「何だ、オモチャのマスクじゃねえか! 驚かせやがって!」

「随分リアルだな。暗い所だと本物に見えら」

「で、アラン君はどこよ?」


 と、その時、不意に部屋の隅に置いてある大型液晶テレビが点いた。


「ひっ!」

「ひっ!」

「ひっ!」


 ビクッとして、一斉にテレビの方を見るヤンキー三人娘。


 そこに映っていたのは、


「奥さん、僕はずっと前からあなたの事が!」

「いけません、私には夫と子供が!」


 若い男が人妻をベッドに押し倒して強引に想いを遂げようとするシーンだった。


 思わずテレビに近寄り、画面に釘付けになるヤンキー三人娘。


 あえぎつつ体をくねらせて色っぽく抵抗する人妻のブラウスの襟元に男が手をかけ、そのまま勢い良く左右にはだけて乳が露わになる寸前、画面は大きく乱れて白黒の砂嵐と化す。


「そりゃねえだろ、おい!」

「電波が乱れてるんじゃねえのか」

「いや、待て。何か映ってる」


 白黒の砂嵐は少しずつ別の画像に変化して行き、やがてゴミ処分場と思しきガレキの山を映し出した。


 緩やかなBGMと共に、


『明日の犠牲者は以上の方々です』


 という意味不明なテロップが画面下に現れる。


「何だこりゃ?」

「訳わかんねえよ」

「いいから濡れ場やれ、濡れ場」


 やがてテロップが消えると、今度はガレキの山の前に、長い髪を前に下ろして顔を隠した、白い無地のワンピース姿の女が、やや前傾姿勢で両腕を前にだらんと垂らした格好で現れた。


 と、突然女がぎこちない動きながらも、猛スピードでこちらに向かって来る。


「ひっ!」  

「ひっ!」

「ひっ!」


 思わずのけぞるヤンキー三人娘。


 すぐに、長い髪の隙間から覗かせた不気味な片目が大アップになり、初期の読み上げソフトの様な抑揚の無い合成音声で、


「わたしメリーさん、今ゴミ処分場にいるの」


 と言った。


「どこが『メリーさん』だ!」

「名前と姿が合ってねえよ、バカ野郎!」

「色々混じってんぞ、コラ!」


 ビビりつつも虚勢を張ってメリーさんに言い返すヤンキー三人娘。


 メリーさんは続けて、


「わたしメリーさん、このビデオを見た人を今から殺しに行くの」


 しれっと恐ろしい事を告げる。


「じょ、上等だコラ! かかって来いや!」

「舐めた口叩くと、シメっぞ!」

「処分場にもう一度送り返してやらあ!」


 内心すごく薄気味悪く思いつつも頑張って威嚇するヤンキー三人娘。


「わたしメリーさん、今リング家の森にいるの」


「早えよ!」

「ってか、お前そこから動いてねえだろ!」

「そもそも、コレ録画じゃねえのか!」


「わたしメリーさん。今旅館の前にいるの」


「もう着いたのか!?」

「何でアタシらのいる場所が分かるんだよ?」

「嘘だろ、おい!?」


「わたしメリーさん、今あなたの後ろにいるの」


 すっかり怯えきったヤンキー三人娘が一斉に背後を振り返る。


 そこには長い髪を前に下ろして顔を隠した、白い無地のワンピース姿の女が、やや前傾姿勢で両腕を前にだらんと垂らした格好で立っていた。無言で。


「ひいいっ!」

「ひいいっ!」

「ひいいっ!」


 腰を抜かしてその場で派手に尻もちをつくヤンキー三人娘。


 ゆっくりと一歩前に踏み出すメリーさん。


「やだやだっ、こわいっ! こわいーっ!」

「こっち来んな! お願い、来ないで!」

「た、助けてえっ!」


 涙目になって畳の上を尻もちをついたまま必死に後ずさるヤンキー三人娘。


 そんなヤンキー三人娘の前で、さらにメリーさんは倒れ込む様に両手両膝をぺたんと畳に突き、四つん這いになって近寄って来る。ゆっくりと。


 恐怖のあまり声も出なくなり、身を寄せ合ってガタガタと震えるヤンキー三人娘。


 と、メリーさんは四つん這いのまま右手を上げ、テレビ画面を指差した。ヤンキー三人娘が恐る恐るそちらを振り返ると、画面内にもうメリーさんの姿はなく、いつの間にか、


『ドッキリ大成功!!』


 白い背景に大きな赤い文字でお馴染みのフレーズが映っていた。


 唖然とするヤンキー三人娘の前で、すっくと立ち上がり、長い髪を片手で、ふぁさっ、とかき上げてその御尊顔を晒しつつ、


「いやー、こちらの予想以上! 最っ高のリアクション頂きました!」


 メリーさんに扮していたエイジン先生が、実に爽やかな笑顔でサムズアップ。


 一瞬の沈黙の後、恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして跳ね起き、


「くだらねえことしてんじゃねえ、この野郎!」

「殺す! マジ殺してやる!」

「いっぺん地獄見いや、コラ!」


 野獣の様な勢いでエイジン先生に襲い掛かるヤンキー三人娘。


 エイジン先生は素早く後退して三人を誘い込み、一人ずつ肩をつかんで相手の勢いを逆に利用し、ひょい、ひょい、ひょい、と、そこに敷いてあった布団の上に軽々と転がして行く。


 三人が布団の上に倒れると、すかさずベティの頭を両膝で挟み込む様に押さえつけて正座し、続いてタルラ、ジーンの頭も顔を横にして上から手でぎゅっと押さえつけてしまった。


 布団の上で仲良く頭を押さえつけられ、ジタバタもがくヤンキー三人娘。


「てめっ……魔法を使ったな!」

 

 頭を膝に挟まれたベティがうめくように言う。


「リング家の森の中で魔法は使えないだろ。ちっとは考えてから物言え。コレは断じて魔法なんかじゃないが――」


 エイジン先生はそこで一拍置いてから、


「お前らは間違いなく阿呆だ」


 からかう様な口調で付け加えた。


「んだとコラ!」

「誰が阿呆だ!」

「いいからさっさと離しやがれ!」


 頭を押さえつけられたまま、なすすべもなくジタバタもがき続ける三人の阿呆。

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