▼479▲ 基板に二百七十万円の値がついた四十年前のレトロゲーム
誰もいない旅館の中を廃墟マニアよろしく探検と称してずかずかと歩き回り、地下一階にある遊技場で卓球、ビリヤード、エアホッケー、その他諸々のゲームをアラン君と楽しんだ後、自分の部屋に戻り、
「――ってな感じで、いい感じのゲームコーナーがあってな。この旅館を管理してる奴は中々分かってる」
ガル家に残して来たグレタとイングリッドに電話を掛け、詳細にレポートするエイジン先生。
「……随分楽しそうね、エイジン」
「遠く離れた場所から愛しい人に想いを馳せる二人の乙女に対して、最初の話題がそれですか、エイジン先生」
食事と風呂を早々に済ませ、後は寝るだけの状態でベッドに横たわり、スピーカーモードに設定した電話を枕元に置いて、エイジン先生から連絡が来るのをワクワクしながら待っていた二人のポンコツ乙女も、これにはちょっとイラッと来た模様。
「何が驚いたって、吸血鬼に十字架ブーメランを投げて倒すレトロゲームの純正筐体が今も現役で稼働してたんだぜ! 凄いだろ!」
「何がどう凄いのかさっぱり分からないんだけど!」
一般人にとって心底どうでもいい話を聞かされ、つい吠えてしまうグレタに対し、
「純正筐体ですか! その旅館の管理人は一体何者です?」
なまじその手のどうでもいい知識がある為、エイジン先生への恨み言も忘れてつい興奮してしまうイングリッド。
「ま、それはさておき、そっちは留守中変わった事は無かったか?」
「私達の心配は吸血鬼ゲームの二の次なの!?」
「こちらは特に異常ありません。強いて言うなら私達は今、エイジン先生に乙女心を踏みにじられて深く傷付いてしまいました」
「何も問題無い、って事だな。じゃ、切るぞ」
「切らないで!」
「そういう意地悪ばかりしているとロクな死に方をしませんよ、エイジン先生」
「っても、こっちもまだ来たばかりで特に話す事が無いんだが。女当主とその息子に挨拶した位で」
「こっちでは、『エイジンがいつものへらず口でリング家の女当主を怒らせて、逮捕されたらどうしよう』、って割と本気で心配してたのよ!」
「私達がグライダーに乗ってリング家の森へエイジン先生を救出に行く計画まで考えてました」
「ムッソリーニ救出作戦かよ。逆さ吊りフラグが立ちそうで怖いんだが」
「ま、お尻叩きの刑位だったら助けに行かないけど。むしろエイジンにはいい薬だわ!」
「その時は私がお尻を叩く役をリング家に願い出ます。昭和の肝っ玉母さん風の割烹着スタイルで、エイジン先生を膝の上に乗せて、『まったく! この子は! へらず口ばかり叩いて!』、と叱りながらお尻をペンペンさせて頂きます」
「何そのノスタルジックな光景。あいにく俺は女当主を怒らせる様なヘマはしねえよ」
「でも本当に気を付けてね、エイジン。リング家で女当主に無礼を働いたら、最悪死刑だってあり得るんだから」
「逆に女当主と不埒な行為に及んだ場合は、こちらで浮気者のエイジン先生を電気ショックの刑に処します」
「及ばねえよ! 実際に会って確信したが、リング家の女当主は今も亡くなった旦那様一筋だ。他の男が割り込む余地なんぞ全く無い」
「テイタムが言ってた通り、一途な人なのね」
「それに比べてどこぞのエイジン先生と来たら、二人の乙女からこんなに一途に想われながら薄情な態度にも程が」
「じゃ、切るぞ。二人共夜更かししないで、早く寝ろ」
「エイジン!」
「ええ、そう言うと思いましたよ、エイジン先生」
何でもいいから出来るだけ長く話をしたがる二人の一途なポンコツ乙女に三十分程付き合った後、ようやく通話を終え、
「さて、そろそろおもてなしの準備を始めるか」
持参した八十年代仕様のスーツケースの中から怪しげな小道具の数々を取り出し、それらを持って、現在アンヌとイチャイチャ電話の真っ最中であろうアラン君の部屋に向かうエイジン先生。




