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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ4△

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478/556

▼478▲ ミッドウェー海戦前に解読されていた旧日本軍の暗号文

「ま、お母さんをどう言いくるめるかについては、また明日、君が学校から帰って来てからじっくり考える事にしよう。こっちはいつでもいいから、都合がいい時に連絡をくれ」


 カウンセリングと言うより息子を唆してその母親に反旗を翻させようと企んでいると言った方が早いエイジン先生を、


「はい。では、明日からよろしくお願いします」


 あくまでもカウンセラーとして信頼し、屈託の無い笑顔で応じる人のいいブランドン。


 エイジン先生とアラン君がジムを出るとすぐにトレーニングを再開したらしく、中から、カコッ、カコッ、という音が聞こえて来た。


 そんなのどかな断続音を背に、車の方へ戻りながら、


「実に爽やかな青少年だな。物腰も柔らかで俺達にきちんと敬意を払ってくれたし、どっかのヤンキー共とはえらい違いだ」


「カウンセリングの必要無いですね。どこかの人達の方がよっぽど必要ありそうです」


 そこで待つヤンキー共をディスるエイジン先生とアラン君。


「あいつらはカウンセリングするだけ無駄だ。昔から『バカは死ななきゃ治らない』って言うし」


 そう言って笑いながら、車のドアを開け、


「おい、戻ったぞ。今晩泊まる所までやってくれ」


 死ななきゃ治らないヤンキー共に声を掛けるエイジン先生。


「やけに早かったじゃねえか」

「また何か企んでねえだろうな」

「言っとくが、アタシらは同じ手に何度も引っ掛かる程バカじゃねえぞ」


 さっきの女当主の抜き打ちドッキリで懲りたのか、ヤンキー共ことベティ、タルラ、ジーンは妙に警戒している。


「何も企んじゃいねえよ。むしろ何か企んでるのはそっちの方じゃないのか?」


「べ、別に、何も企んでねえし!」

「そ、それより、さっさと乗れ! これで今日の仕事は終わりなんだからな!」

「い、言っとくが、アタシらは何も企んじゃいねえぞ! 絶対に!」


「昭和のコントかあんたら。分かり易いにも程がある」


 絶対何か企んでいる三人娘に一応軽くツッコミを入れてから、アラン君と共に車に乗り込むエイジン先生。


 その後、一行を乗せた車は暗い森の中を十分程走り、オレンジ色に淡くライトアップされた二階建ての和風旅館の前に到着した。


「こんな旅館まであるのか。リング家は本当に何でもありだな」


 大層な瓦屋根の庇付き正面玄関を車から眺めつつ、驚き呆れるエイジン先生。


「客人用の宿泊施設の一つさ。他にも色々あるぜ」

「お前が日本人だっていうから、ヴィヴィアン様はここを指定したんだ。ありがたく思え」

「朝五時から夜九時まで使用人がいるんだが、今は遅いからもう誰もいない。だからアタシ達が部屋まで案内してやる。とっとと降りな」


 急きたてられる様に車から降ろされ、態度の悪いヤンキー三人娘の後から建物の中に入るエイジン先生とアラン君。


 スリッパに履き替えた一同が、きれいに磨き上げられた木の床の玄関ロビーに上がると、


「部屋はアラン君が一階の手前で、お前は二階の奥だ」


 ギョロ目のベティがぶっきらぼうに言い渡した。


「随分部屋が離れてますね。出来れば近い方が――」


 苦情を言いかけたアラン君に、


「そんな事ないぜ。アラン君はこれからアンヌに電話するんだろ? 部屋が離れてた方が話し声を気にしなくていいじゃないか。この手の和風旅館って、あまり防音になってないだろうし」


 横から茶化す様に口を挟むエイジン先生。


「そ、それもそうですね。じゃあ、そのままでお願いします」


 アンヌの事を言われて顔を赤くしつつ、苦情を引っ込めるアラン君。


「よし、アラン君はこっちの部屋に来い。布団敷いてやるから」

「お前は日本人だから、勝手は分かってんだろ。一人でさっさと二階に行け」

「しばらく降りて来なくていいからな」


 ここぞとばかりにエイジン先生を追い払い、アラン君を部屋に連れ込もうとするヤンキー三人娘。


「いや、あんたらはもう帰っていいよ。俺がアラン君に和室の使い方を教えてやるから。今日はどうもご苦労さん」


 それを邪魔するエイジン先生。これでまた一悶着あるかと思いきや、


「んじゃ、アタシ達はこれで帰るから、後は勝手にしろ。この建物の中にある物は何でも好きに使っていいぜ」

「もし何か用があったら電話で夜勤の使用人を呼べ。番号は電話の脇の紙に書いてある」

「朝の五時になればこの旅館担当の使用人が来るから、詳しい事はそいつに聞きな」


 ヤンキー共は妙に大人しく引き下がり、そのまま車で去って行った。


 とりあえず一難去ってほっとしたアラン君は、自分の部屋に指定された一階手前の畳敷きの和室にエイジン先生を招き入れ、テーブルを挟んで互いに座イスに座り、


「あの人達、やけにあっさり帰りましたね。やっぱり色々あって疲れたんでしょうか」


 と尋ねた。


「いや、何か企んでるに決まってる。そうでなきゃ、こうもあっさり引き下がる訳がない。さっき俺がカマかけた時も動揺しまくってたし」


 慣れた手つきでテーブルの上に用意してあった急須に茶葉を入れて、電気ポットからお湯を注ぎつつ答えるエイジン先生。


「じゃあ一体、何を企んでるんでしょう?」


「俺が散々おちょくってやったから、あいつらもかなり鬱憤がたまってるに違いない。その蓄積した鬱憤を晴らしに、今晩遅く、ここへ夜襲をかけるつもりなのさ」


 急須から二人分の湯呑に茶を淹れ、その一つをアラン君に差し出すエイジン先生。


「闇に乗じてエイジン先生の所へ報復しに来るんですか?」


 湯呑を受け取りつつ、心配そうな顔をするアラン君。


「いや、狙われてるのは俺じゃなくアラン君だ。三人がかりでアラン君に夜這いをかけるつもりだろ。あいつらにとっちゃ俺に報復するよりイケメンを襲った方が楽しいに決まってる」


 他人事の様に淡々と語るエイジン先生。実際他人事なのだが。


「そんな!」


「アラン君の部屋を俺の部屋と引き離し、なおかつ侵入し易い一階に指定したのも夜這いの布石だ。分かり易いったらありゃしない」


「こんな危険な所にはいられません! 今すぐ部屋をエイジン先生の隣に移動します!」


 ゾッとして青ざめ、思わず立ち上がるアラン君。


「落ち着け。今すぐには来ねえよ。あいつらが夜這いをかけるとしたら、俺達が寝静まった頃合い、つまり深夜二時か三時頃だろうな。まだ時間はたっぷりあるから、あわてる事ぁない」


 悠々と茶を啜るエイジン先生。


「本当に大丈夫でしょうか」


「大丈夫。向こうが奇襲を仕掛けて来ると分かった以上、こっちもしっかり腕によりをかけておもてなししてやるさ!」


 悪事を企む時は妙に楽しそうないつものエイジン先生。


「それより、一休みしたらこの旅館の中を探検しようぜ! 卓球台とかビリヤード台とかエアホッケーがあるかもしれないし!」


 いつでもどこでもマイペースなエイジン先生。

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