▼476▲ これでもかと散らかった部屋でグータラしてた所へ彼氏に抜き打ち訪問される彼女
高校生の息子に彼女が出来たかどうか心配する余り色々とあさっての方向にブッ飛んでしまったヴィヴィアンに対し、場の空気が読めない若手芸人よろしく相手が超大物であろうと全く遠慮せずツッコミを入れ始めたエイジン先生を見て、アラン君が再びオロオロし始めたその時、
「お夕食をお持ちしました」
ちょうど良いタイミングでメイドが料理を乗せたワゴンを食堂の前まで運んで来た。
「ご苦労、後は私がやる」
アホな会話に加わることなくそれまでずっと黙って控えていた執事のグレゴリーがメイドからワゴンを受け取って給仕し、いよいよ夕食が始まると、
「このマッシュポテトとローストビーフのお味はどう? お口に合うかしら?」
「うまいです。グレイビーソースがじゃがいもと肉の味をよく引き立ててますねえ」
ヴィヴィアンとエイジン先生との間で無駄にヒートアップしていた雰囲気も一旦リセットされ、アラン君もようやくほっと胸をなでおろす。
そのまま三人で和気あいあいと料理を平らげた後、
「ま、今日はもう夜も遅いですし、本格的なカウンセリングを始めるのは、明日ブランドン君が学校から帰って来てからって事で」
寛ぎ切った様子で食後の紅茶を啜りつつ、仕事に話を戻すエイジン先生。
「この時間なら、ブランドンはまだジムで日課のトレーニングをしてる最中よ。どう、行ってみる?」
同じく寛いだ様子で提案するヴィヴィアン。
「じゃ、とりあえず、軽くご挨拶だけしに行かせてもらいましょか。車で送ってもらって構いませんね?」
「構わないわ。グレゴリー、あの子達に連絡して」
「あ、連絡はちょっと待ってください。一つ面白い趣向があるんですが――」
それから約十分後、エイジン先生は外でずっと待機していた送迎車の最後部のドアをノックもせずに開け、
「終わったぜ。って、何だよこの惨状は」
運転席にもたれてだらしなく大いびきで眠りこけているベティ、前の方のソファーに寝そべってビーフジャーキーを咥えながらゴシップ誌を読んでいるタルラ、後の方のソファーに深く腰掛けバーカウンターに両足を乗せて車に備え付けられている液晶テレビで西部劇を鑑賞中のジーンを目撃する。
「あ? グレゴリーからはまだ車出せって連絡来てねえぞ?」
面倒くさそうに起きて振り返るギョロ目のベティ。
「食事の途中で抜け出して来たのか? 行儀の悪い客だな」
ソファーに寝っ転がったまま顔を上げようともしないジト目のタルラ。
「一体何しに来たん……って、ヴィヴィアン様、何でここに!?」
そう言ってギロ目のジーンがあわてて足をバーカウンターから下ろしたのは、エイジン先生の背後にリング家の女当主の姿を認めたからである。
「予定変更よ。今からジムまでエイジン先生達を送ってあげて。泊まる所はその後で」
「はっ、ただいま!」
居住いを正し、急いで車のエンジンをかけるベティ。
「そうね……私も一緒に行こうかしら?」
「し、しばらくお待ちを! すぐに車内を片付けますので!」
ソファーからガバッと跳ね起き、読んでいたゴシップ誌を背中に隠しつつ、バーカウンターの上にとっ散らかった菓子の袋や飲みかけのグラスを急いで脇に寄せ始めるタルラ。
「ふふ、やっぱりやめておくわ。じゃ、エイジン先生、後はよろしく」
失態をあたふたと取り繕おうとする三バカトリオの様子を見て面白そうに笑うヴィヴィアン。
「ぶははは! いやー、思った以上に理想的なリアクション頂きました!」
この抜き打ちドッキリを提案したエイジン先生も大満足の模様。
当然、女当主に見送られつつ車が発進するや、
「てめ、調子こいてんじゃねーぞ、ゴラァ!」
「やっていい事と悪い事ってもんがあんだろーが、あ?」
「ヴィヴィアン様の中でアタシらへの評価が思いっきり下がったじゃねーか!」
ものすごい剣幕でエイジン先生に吠えまくる三バカトリオ。
「安心しろ。こんな事しなくてもヴィヴィアン様の中であんたらに対する評価はもう下がりようが無い所まで落ちてるから」
全く動じず、飄々と火に油を注ぐいつものエイジン先生。
この分だと車がジムに到着するまでの間に車内で大乱闘が始まるんじゃないかと気が気でないアラン君。




