▼475▲ 「俺が死んだら絶対にハードディスクを破壊してくれ」と言い残して最前線に向かう兵士
茶化されても真剣な表情を崩さないヴィヴィアンをしばし眺めた後、
「ふむ。そこまで心配されているという事は、息子さんの行動に何か不審な点でも?」
少しだけ真面目な口調になって尋ねるエイジン先生。
「最近になって急に『バイク通学がしたい』と言い出したのよ。それまでは車で送り迎えしていたのに」
あくまでも真剣に答えるヴィヴィアン。
「男の子としては割と普通ですが。車の送り迎えより遥かに自由気ままですし。てか、ブランドン君はリング家の森の外の学校に通ってるんですか」
「その気になれば学校も森の中に用意出来るけれど、外の世界と接する機会を持たせた方がいいと思ってね。でも、リング家の人間が護衛も付けずに森の外を一人でふらつくのは危機感が無さ過ぎるわ。それなのにあの子はガンとして譲らなかったの」
「じゃ、今は晴れてバイク通学を?」
「ええ。『大丈夫だから』の一点張りで」
「ま、息子さんにしてみりゃ一々送り迎えされてたら、『俺は幼児か!』って言いたくもなるでしょう。それに、色々ハメを外したくなる事もありますよ。その年頃の男の子なら」
「ハメを外す?」
「友達とゲーセン行ったりカラオケ行ったり、一人でこっそり怪しげな本屋に立ち寄ってハードな趣味のエロ本を漁ってみたり」
「エイジン先生!」
レディーに対し下品極まりない事を言い出したエイジン先生に、思わず横から注意するアラン君。
「構わないわ、アラン。むしろそうだったらいい位よ」
アラン君を軽く制して、大真面目にエイジン先生との話を続けるヴィヴィアン。
「もし息子さんの部屋でその手の写真集を見つけてしまってもそっとしてあげてください。間違ってもジャンル別に整理して机の上に積み上げたりしない様に」
「そんな意地の悪い真似はしないわ。メイドに息子の部屋を探させてもそんな写真集は見つからなかったし」
「探させたんかい。しかも他人であるメイドを使って」
「息子がどんなタイプの女が好みなのかは、母としてリング家の当主として非常に興味があるわ。嫁候補を選ぶに当たってね」
「いや、女の人は誤解しがちですが、男が『興味本位で見たいタイプ』と『実際に付き合いたいタイプ』って別物ですから。動物園で象を眺めるのが好きな人がその象を家で飼いたいとは思わないのと同じで」
「ふふ、象と女を一緒にしないで」
「元ネタは七十年位前に亡くなった俺の世界のコメディアンの言葉です。ま、もっとも今は本を隠すより画像データをパソコンに保存する時代ですけどね」
「パソコンのハードディスクの中身も見たかったけれど、厳重にパスワードがかかっててダメだったわ」
「ハードディスクまで調べさせたんかい。鬼かあんた」
「ここまで厳重に秘密にしてるって事は、裏に何かあると思わない?」
「あるに決まってます。なおさらそっとしてあげてください。それと、家族といえど人のハードディスクの中身を盗み見るのは絶対やっちゃいけない行為の一つです」
「息子が、いえ、リング家の血を引く重要人物が危険な目にあうかもしれないのよ?」
「一番危険なのは母親のあんただよ」
「母親のカンだけど、最近妙に私に隠し事をしている様な感じがするし。やっぱり女じゃないかと思うの」
「母親のカンはともかく、同じ男として息子さんがすごく可哀想になって来たんですが」
「そんな訳で息子の隠し事をあらいざらい暴いてやってちょうだい。手段は問わないわ。何なら自白剤や拷問も許可するわよ!」
「んなモン許可すんな!」
母親いう名の怪物を前にして茶化す余裕もなくなり、突っ込むのが精一杯のエイジン先生。




