▼474▲ 本人に確認しないまま勝手に根も葉もない恋バナ妄想で盛り上がり結婚までのプロセスをシミュレートする周囲
テーブルに頬杖を突くのをやめて椅子にきちんと座り直し、
「ともかく、こちらの手の内は見せたわよ。次はそちらの手の内を見せてちょうだい。この依頼を引き受けるに当たって、あなたは何を企んでるの?」
改めてエイジン先生に尋ねるヴィヴィアン。
「こちらで企んでいる事はただ一つ。『どうすれば効率的に総額五千万円の報酬を手に入れる事が出来るか』です」
まったく悪びれずに直球で答える金の亡者。
「具体的にはどうするつもり?」
軽く笑って、さらに尋ねるヴィヴィアン。
「ブランドン君本人に会ってから考えます」
「案外行き当たりばったりなのね。テイタムはあなたの事を、『かなり早い段階で解決までのプロセスを組み立ててしまう人』とも言ってたけれど」
「プロセスを組み立てるにはまだ情報が足りません。ですが、今の段階で思い付いたプロセスもあるにはあります」
「ぜひ聞かせてちょうだい」
「依頼内容は要するに『ブランドン君の意中の人を探り出して結婚に追い込め』という事なんでしょうが、さっきも言った様に、こういう事は下手に周りがちょっかいを出すと容易く破局してしまいます。恋愛を成就させたかったら、むしろ何もせずにある程度育つまで放っておくんです。
「効率的に結婚に追い込むには、『実は今付き合っている子がいるんだけど、今度家に連れて来るよ』と息子さんが自分から申し出て来た頃合いがベストです。十七歳という世間知らずで青春真っ盛りの子供が恋に落ちた日にゃ、後先考えずに『大丈夫、愛さえあれば上手く行く!』と突っ走りまくる事請け合いです。
「普通の家庭の親なら、『そういう事は学校を卒業してきちんと就職してからにしなさい』などと諭す所ですが、当家にとっては正に渡りに船。熱が冷めない内に後押しして、ささっと結婚させてしまえば万事解決でしょう。いかがです?」
「そう上手く行くかしらね。もし、息子の恋がそこまで育たずに消滅してしまったら?」
「次の恋が育つのを待ちましょう」
「悠長な話ね」
「それもまた青春です。と言うか、そもそもあなたはまだお若いのに、どうしてそんなに早く跡取りを欲しがるんです? 余命いくばくもない病気にかかってしまったとか?」
「あいにく体はどこも悪くないわ。早く跡取りが欲しいのはもちろんだけれど、それ以上に心配な事があるの」
「それは一体?」
「息子が変な女につかまらないかって事」
「母親としては当然の心配ですが、それもまた青春です。男の子は傷付いて強くなるもの。ダメージが大き過ぎて弱くなったり絶望のあまり二次元に逃げたりするケースも多々ありますが」
「そうじゃないわ。リング家の血を引く者の場合、事は青春云々で済まないのよ。もし、『無効化魔法を使える魔女』がリング家以外に拡散してしまったら、この世界にとって非常に厄介な事態になりかねないの」
「ああ、そういう事でしたか。この世界に来てまだ日が浅いもので、つい失念してました。つまり、リング家に嫁ぐ気はさらさらなく、『無効化魔法を使える魔女』を孕む事だけが目当てで、息子さんを誑し込もうとするムフフなお色気要員がいないとも限らない、と」
「もしかすると、既に誑し込まれつつあるのかもしれないのよ」
真剣な表情になるヴィヴィアン。
「心配症の母親の妄想ではありませんか?」
すかさず茶化すエイジン先生。
「心配症の母親の妄想かどうかは、あなたがブランドンに会って確かめて」
茶化されても怒る事なく真剣な表情のままのヴィヴィアン。
そんな二人のやりとりを見てハラハラしっぱなしのアラン君。




